メリー・ポピンズ

 あれは私が高校生くらいで風邪で寝込んで学校を休んでいたときのことです。ふと何の気なしにテレビをつけてチャンネルを変えていたら、いきなりテレビ画面に屋根の上で踊り狂う一団が映ったのです。なんだこれはと思い、私はしばらく見入ってしまいました。それが私と「メリー・ポピンズ」との出会いでした。「メリー・ポピンズ」という映画の存在は知っていたのですが、ただのファンタジーと思い、ことさら意識したことはありませんでした。途中から観ただけですが、ここまでイカれた映画だとは思わなかったのです。私は風邪が治ったら、すぐさまレーザーディスクを買いに行きました。

 最初から観てみると、「メリー・ポピンズ」は単なるファンタジー映画ではなく、究極のファンタジー映画だと分かりました。これほど容赦ないファンタジーはありません。この映画の中には楽しいことしかありません。子供向け映画を装っていますが、この映画はそのさらに一歩先を行っています。人生には楽しいことばかりじゃない、つらいこともあるんだよ、と普通なら言うところを、それすらも笑い飛ばそうぜという強烈なメッセージが隠されています。ここまで徹底されたら逆に気持ちいいくらいです。後半の大人たちのドラマなど、むしろある程度人生経験を積んで、疲れた人向けの映画かも知れません。

 まあメッセージとか堅苦しいことを抜きにしてもこの映画は文句なしに素晴しいです。まず歌がどれも名曲揃いで、お馴染みの曲が実はこの映画が元ネタだったのかと驚きます。ジュリー・アンドリュースは可愛いし、ディック・ヴァン・ダイクの歌も踊りも見事です。さらにこの映画で仰天するのは、アニメと実写の合成シーンです。今から50年以上も前の映画なのですが、今よりも凄い技術だと思わされます。全く違和感なくアニメのキャラと俳優が共演しています。「ロジャー・ラビット」や「スペース・ジャム」などよりも自然に見えます。こう考えるとつくづくCGよりもアナログ合成の方が美しいのだなあと思います。もちろんアナログ合成の方が手間がかかるし、難しいのでしょう。メイキングを見ると今ではこの技術は失われてしまい、どうやって撮影したのか分からないそうです。

 60年代のアメリカならではの豊かさが感じられる映画です。ひょっとしたらこの映画、私の一番好きな映画かもしれません。この映画も最近続編ができたようで、「メリー・ポピンズ リターンズ」というのがそれですけど、まだ怖くて観れていません。「ブレードランナー」同様あまりに前作が好きすぎると、その続編を観るのがかなり覚悟がいるのです。まあいずれ観るとは思いますが……。

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