ザ・バンク 堕ちた巨像

 本日はサスペンスアクションの秀作「ザ・バンク 堕ちた巨像」のご紹介をしたいと思います。これ予告を見た時はあまり気にならなかったんですが、トム・ティクヴァ監督と聞いて、俄然興味が湧いてきたので、かなり期待して鑑賞しました。これはかなり拾い物のサスペンスアクションです。70年代が蘇ったかのような、手堅い作りになっています。

 インターポールの捜査官のクライヴ・オーウェンが、IBBCなる国際銀行の陰謀を追うというポリティカル・サスペンスなのですが、ティクヴァ監督がここまで職人的演出に徹するとは思わなかったので、嬉しい誤算でした。この時点ではもっとアート系の映画を撮っていく人かなと思っていたのです。

 まずは同僚が殺されたところから始まります。IBBCの元幹部が情報提供したいというので同僚が接触すると、その直後にクライヴの目の前で殺され、情報提供者も消されます。クライヴは何年もかけてその銀行を追っているのですが、証人を消されたり、証拠不十分と言われたり、圧力をかけられて捜査を終了させられたり、しまいには警察をクビになってしまった過去があります。今回目の前で仲間を殺されたものですから、もう執念で捜査していきます。このクライヴのギラギラ感が凄いです。尾行しているときも、バレる! バレる! とヒヤヒヤものでした。

 ナオミ・ワッツも検事として共同で事件を追っているのですが、ちょっと影が薄かった気もします。いろいろ事情があったのでしょう。でも車に轢かれるところはびっくりしました。あんな遠くで何気なく轢かれているのなんて見たことありません。映画としてちょっと珍しい演出だと思いました。

 IBBCは裏で兵器売買をやっていたりして、いろいろヤバい国とも取引しているわけで、その証拠を掴もうとしても、いろいろな国の捜査機関や警察にも協力者がいるためクライヴの努力はいつも徒労に終わります。真相を知っている者も消されるのを恐れて証言しようとしません。そんな中、取引相手でもあったイタリアの次期首相とも目される実力者カルビーニに話を聞こうとするのですが、彼もまた演説中に暗殺されてしまいます。この辺りのサスペンスフルな演出が地味ながらなかなかいいです。狙撃手が時計通りに暗殺しようとしているのと同時に、警備をしている警官隊も時計を見たりして、この警官隊も全てを把握しているということを映像だけで表現しています。こういう演出も最近あまり見ないのでなんだか嬉しくなってきます。

 案の定、その狙撃手は囮で、踏み込んだ警官隊に射殺され、なんとかいうテロ組織のせいにされてしまいます。警官もグルでそいつが犯人という証拠を捏造する手の込みようです。何故そんなことをするかというと、IBBCとしてはカルビーニが取引を断ったため始末をし、その息子たちと取引がしたかったのですが、自分たちが犯人と知れたら当然取引どころの話ではないので、そのように別の犯人が必要だったわけです。しかしクライヴたちは弾道のズレから囮の狙撃手以外にもう一人狙撃手がいたことを掴みます。

 サスペンスとしては良く出来ていますが、本当なら会話とかはもっと含みを持たせた言い回しであったり、腹芸的なものを使ってほしいのですが、直接的なセリフが多く、ここら辺はやはり分かりやすさを優先させたのでしょう。そのせいでちゃんと観ていれば充分ストーリーは分かりやすく、観ていて混乱することはほとんどありません。視点もやたら複数あったりすることはないので、この手の映画としては非常に観やすくなっています。

 クライヴがその殺し屋を追いつめ、逮捕しようとした瞬間、口封じのために暗殺チームが襲いかかってきて、美術館で銃撃戦が行われるのですが、ここが中盤の大きな見せ場になっています。殺し屋と手を組んで二人で暗殺チームを迎え撃つのが、なんだか西部劇を観ているようで燃えます。もうこれは何と言っていいんでしょう。久しぶりにこれだけ出来のいい銃撃戦を見たという感じです。アクションとしてカッコいいとかリアルとか、テンポがいいとか、派手とかは当然として(当然としてしまえるのがまず凄いんですが)、一歩間違えたら殺されるという緊張感が常に漂っているのが凄いです。遮蔽物に隠れなければ撃たれるため、位置取りというものがもの凄く重要になってきます。さらに弾切れというものが切実な問題として扱われているのが映画として珍しいです。最近流行のスタイリッシュな銃撃戦と違い、息は乱れ、マガジンを取り替える時も手が震えてなかなかうまくいかないみたいな演出は本当にハラハラさせられます。もちろんスタイリッシュな銃撃戦もあれはあれで様式美ですので、ダメということではないんですが。

 ちょっと惜しいのはその中盤以降、銀行の相談役みたいな老人を確保して取り調べをして、最後の大詰めに映画は向かうのですが、その辺の展開は、つまらないとは言いませんが、こうなるんだろうなあと予想出来てその通りになっていくだけですので、もう一押し何か欲しかった気がします。

 それでも最後のクライヴの表情はなかなか見物です。最終的に黒幕を始末することは出来たのですが、果たしてこれで良かったのか、これでは俺も彼らと同類ではないのか、あるいは何の解決にもなっていないのではないかというやりきれなさはなかなか余韻があっていいと思います。ラストの新聞記事だけはちょっと蛇足かなと思いましたが。

 なんだかんだ言いましたが、それでもこの映画は近年稀に見るくらい地味で手堅く作られたストイックな良品だと思います。派手な爆発の一つも起こらないところとかに作り手のこだわりを感じます。トム・ティクヴァ監督もこれでサスペンス映画をガンガン作っていくのかなと思いきやそういうわけでもなかったのでちょっと残念ですが、ほのかな期待を持ちながら今後も見守っていきたいと思います。


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