#2 こけしにアイドルを着せた話
100日後、30歳になる小川 #2
これは、100日後に30歳になる小川が30歳になるまで毎日noteを更新する、やつです。(企画なのか、連載なのか、はたまた試練なのか、足枷なのかまだ僕には分からない)
何を書こうか色々と考えていた。
自分の好きなものを書こうか、自分の30年を振り返ろうか、本当にその日に気になったことを書こうか...。
#2なのにもうネタ切れ感は否めないが、会社で就活の頃の雑談をしたりしたので、この話を書こうと思う。
こけしにアイドルを着せた話。
もう早速よく分からないとは思うのだが、僕が就活をしていた頃にお守りのように鞄に忍ばせていたものがあった。それが件のこけしだ。
[就活 スペース 鞄]で検索すると大体出てくること。それは、床に置いたらすくと独り立ちすべしというよくわからないルールだ。鞄が立とうが立たまいが、そんなものどっちでも良かろう。はじめはそう思ったものの、なんだかんだ不安になってくる。だいたいのマナーなんて、調べれば調べるほど、なるほどそういうものなのかも?と言う気分になってくるものだ。でも、僕の家にはビジネス用の鞄みたいなものは何ひとつなかった。でも就活のためにわざわざ今後一生使うことのない自立バッグを買う気にはなれなかった。
そうだ、あれがある。
なにかの拍子に買ったPORTERのなんかいろんな使い方できるやつ。後ろのチャックを開けるとにょーんと2本帯が出てきてリュックになるやつ。
でもそいつは立たなかった。音も立てずにシナッと倒れる。使えないやつだ。でも僕はその鞄が好きだった。だからそいつと一緒に就活をすることにした。なんか、スーツのサラリーマンが背負ってるのも見たことあるし。
そして、迎えた面接の日。
まあ立たないことは承知の上なので、おかけくださいと言われて座った椅子にさりげなく立て掛ければいいだろう。そう思ってカバンを置いた。
あれ...?え...?
立ってる...?
カバンが立った。
何故立ったのかを必死に考える。
そして気付く。
そうだ、あいつが鎮座しているからだ。
マイボトルかのように鞄の右端に縦に入れられていたのはそう、紛れもないこけしだった。(本当に水筒くらいのサイズ感)
それ以来、僕の就活にはいつもこけしが同伴していた。
このPORTERの鞄に、こけしが入っているなんて誰が想像しただろう。でもそれは僕にとってとても心強いものだった。
では何故、僕が新幹線にまでこけしを乗せて東京にせっせと運んでいたのか。その話をしようと思う。
僕はグラフィックデザインの勉強をしている学生だった。就活にはポートフォリオ(作品集のようなもの)を持っていく。小川のWEBリサーチによると、同じような見た目じゃ目にも留まらない、ポートフォリオはあなたそのものだ、とのこと。
就活生小川は考えた。
ポートフォリオに載せた作品。
この作品を説明する時にはこれが必要だ。
そう。KOKESHI。
結果、小川の鞄は立ったのだ。
その作品がこれだ。
日本の伝統工芸であるこけし。その古来からの可愛いと、世界でも通用するアイドルのkawaiiを掛け合わせた。可愛い×kawaii、それって本当にカワイイ?と言うのがコンセプトだ。今思うとちょっと自分でもよく分からない。でも当時の僕はこれは最高にイカすと思っていた。
この作品は、JAGDA(日本グラフィックデザイナー協会)が主催する、学生向けのコンペに出品した作品だ。形式はポスター。テーマは「JAPAN」だった。
なんとこれが、奇跡にも程があるのだが、入選作品に選ばれることになる。後にも先にも、賞をもらったコンペなんてほとんどない。そんな学生は真っ先に自分の功績としてそれを見せつけたいに決まっている。その結果のこけし行脚なのである。その結果の鞄が立った。なのである。
「このポスターは、どういう点が面白いのですか?」
そう面接官に聞かれたことがある。
ちゃんと答えられなかった。
今も答えられる自信がはない。
コンペに悩む学生は、自分の好きなものを考えた。そして書き出した。(ありがち中のありがちな行動)その中のひとつに目が行く。
「アイドル」
そこから何をどうして、こけしにアイドルの衣装を着せるに至ったかの詳細はもう覚えていないのだけど、こけしにアイドルの衣装着せたら面白くない?その程度のものだったと思う。
日本のアイドルのTHE可愛いを表しているのはやっぱりAKBだ!そう思って制服のような衣装を着せることにした。というかほぼ言い訳maybe。前田敦子の衣装を参考にした。
その頃僕はもうハロプロにどっぷりだったのだけど、ハロプロの衣装はそう。ちょっとあれなのである。決して王道の可愛いではないのだ。(でもそれが大好き)
シャツなんてどうやって作るの?襟なんてどうやって作るの?そんな状態から衣装作りは始まった。こけしの型紙なんてもちろん存在しないから、リカちゃん人形の型紙を使う。せっせと作った。
我ながら可愛くできたぞ。
そう思って着せてみる。
でも一筋縄ではいかなかった。
こけしに服なんで着せられない。
だって身体が棒なんだから。
引っかかるところなんてひとつもない。
極度の寸胴体型だったのである。
そこからはもうあらゆる接着剤を駆使して胴体にくつっけようとしたがこけし表面の漆的なものに阻まれる。結果的に襟口を狭く狭ぁくして、こけしの球と棒のわずかなくびれに襟を食い込ませることに成功。不自然に余った生地は全部後ろに回してひっつき虫(練り消しのような素材の簡易接着剤)で無理やり固定。そうして完成したのである。
そこからは大学の撮影室にこもって撮影会。
心の中で、いいよいいよぉ、かわいいよぉ。と話しかけながら撮影した。こちら本邦初公開の別verこけしちゃんである。
そこから画像を編集して、さらに理想のこけしに近づける。そうして出来上がった頃には僕は完全に力尽きていた。それゆえのこのシンプルなポスターである。
こうして、こけしと向き合う日々は幕を閉じた。
このこけしちゃんは未だ着衣のまま小川家のクローゼットに眠っている。
そして、言うまでもなくこのこけしがあのPORTERの鞄から飛び出して、面接官の前で陽の目を浴びることはなかったのである。
むしろ、鞄の中から水筒大の着衣こけしが飛び出していたらどうなっていたのだろう。
僕が30歳になるまで、あと99日。
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