モーニング

早朝6時。寝惚け眼が密集する暑いバスから降りると、温度差に風邪をひきそうなくらい名古屋の朝は寒かった。栃木より全然寒いように感じた。あまりにも寒いしこの時間だと入る店もないので、バスターミナルの待合室で暖をとって時間を潰す。分かってはいたことだが、夜行バスでは全然眠れなかった。乗車1時間後にはケツが疼き出し、2時間後には悲鳴を上げる。悲鳴を上げてからは狭い座席をいっぱいに使って体制を微妙に変え続けて凌ぐ。そうなると眠れないし、眠ってる場合ではなくなる。だいたい電車でもよっぽど眠くないと寝ないし、自室の布団以外完全アウェーなのだ。よくこれで旅を嫌いにならないなと自分でもつくづく思う。

AM7:40。お目当てのカフェの前には既に5.6人の列ができていた。開店が7時半なので、この感じだと開店前からかなりの人が並んでいるのではないか。カフェのモーニングに並ぶのは初めての経験だな、とメニューを眺める。20分ほど待ってようやく中に入れた。縁もゆかりも無い土地の初めて入るカフェには老若男女で席が埋まっている。若い観光客もいれば地元のおじ様おば様も、友達同士もカップルも夫婦もおひとり様もいる。その中に俺もいる。端っこの席に案内される。目の前のおじさんは既に完食して、半分ほど残ったコーヒーを啜りながら至福の読書タイムを楽しんでいるようだ。おひとり様が座る長方形の長いテーブルの壁には大きな古時計がかかっていて、俺はその真下に座った。このゆったりした時の流れを作り出す魔法の時計かもしれない。食パンを半分に切った苺ジャムトーストとふわふわの半熟玉子が乗ったドリア、ポテトサラダとホットカフェオレを頂いた。とても美味しかった。ふわふわの半熟卵のドリアは消えてなくなるようにスルーっと飲み込めるし、朝の寝ぼけた胃を刺激することなく旨味だけが舌に残った。本を読む前に全部食べるとなんだか持て余しそうなので、半分ほど食べたところで本を手に取ったが、10ページ読み進めた頃には完食していた。

AM10:30。小説はいよいよ事の真相にかかろうかというところだったが、お昼のランチの約束に遅れないように早目に外に出た。開店直後から3時間居座る客が白い目で見られないのはありがたい。実際どう思われてるのかは分からないけど…。入店前から比べると人通りの増した名古屋の街は、雪が積もっているのかと見間違えるほど真っ白に見えた。そこに現実に戻される感覚は微塵もない。ひとりの余所者として俺は歩き出した。





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