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走れ!軽トラ

山の苗木畑で働いている。


畑は広い。あちこちにある。隣がよそんちのネギ畑だったり、長芋畑だったり、酪農家さんちのエサ用のデントコーン畑だったりする。

移動は軽トラの荷台。ムシロの上に座って行く。違反?ご心配無く。道は全て、畑の中の私道。真ん中に草の生えた土の道。

今は少ないけど、春や秋の忙しい時期は人数が増える。荷台に10人近く乗ることもある。「大丈夫。1人30㎏だもね」って言われる。ふふふ。軽トラかわいそう。


カッコウが帰ってから、交代してセミのオンステージ。北海道の短い夏。なのに青空になってくれない。どんよりなのに気温が高い。蒸し暑い。顔から次々、汗が噴き出す。ー番女優に向いてないタイプ。……いや、畑には鏡がないんです。


大好きなポルノグラフィティの曲に

雨のにおい    冷たい風    不機嫌な雲       

『サボテン』ポルノグラフィティ
作詞/新藤晴一

という歌詞がある。この仕事を始めるまで、実感したことがなかった。


今ならわかる。まず暗くなる。もともと曇っていたのが、更に一段階暗くなる。そして冷たい風。雲の来る方向から、いっきに吹いてくる。周りの温度が急に下がる。それから雨の匂い。水分の匂いを想像していたけど、違う。土の匂い。ほどなく、ぱらぱらと降り始める。向こうはすでに雲の中だ。

広い畑の真ん中じゃなくてよかった。少し行けば境界の防風林がある。とりあえず、そこまで走る。1本に1人ずつ。大きなオンコの木々だけど、1列だけなので、ちょっと濡れる。


来る雲は黒い。雨は止みそうにない。こうしててもしょうがない。「もう、ムリでないかい?」雨が降ったら仕事は終わり。倉庫まで戻ることにする。

軽トラまで走り、一斉に飛び乗る。と同時に、どしゃ降りになった。軽トラ、走る。運転手クン、いつもよりスピードを出してくれる。でも荷台に後ろ向きに座っているわたしの背中は、絞れるくらいにびちゃびちゃだ。

もう、おかしくてしょうがない。大人になってから、水遊びしたことありますか?服を着たまま飛び込んだことありますか?童心に帰る。キャーキャー言う。もう笑うしかない。

500mくらいもあるだろうか。何度も角を曲がって、ようやく倉庫まで戻って来た。そう、そしてみなさんの期待どおりに……着いた頃には小降りになっている。

顔を見合わせて、またみんなで笑う。少し様子を見ていたら、雨は完全に止んでしまった。黙って木の下にいたほうが濡れなかったな。


誰も文句を言わない。自然には逆らえない。それがよくて、この仕事をしている。苗木だって喜んでいる。

もう一度畑に戻る。背中は濡れたままだけど、暑いから気持ちいい。終わりまであと1時間。草取りも、もうひとがんばりだ。
  

雨にもちゃんとした素敵な理由がある
誰かの事を想う時にはこぼれる涙隠してくれる
晴れたらちょっとだけ青い色を借りて
痛む心に鳥を描こう
いつかは風が吹き抜けてゆくでしょう 

『天気職人』ポルノグラフィティ
作詞/新藤晴一


ずっと雨ばかりの先週の、ある日の出来事だった。




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