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「特に優れた業績による返還免除」制度について〜バイオ系修士の場合〜

こんにちは。暇な女子大学院生のしろくまです。

今日は日本学生支援機構の返還免除申請について書きます。

学生支援機構の奨学金は基本的に「学資ローン」です。卒業後、返済していかなければいけません。

しかし、表題の制度を使えば全額、あるいは半額を返さなくてもよくなるかもしれません。

大学院生、およびこれから大学院に進む学部生さんにはぜひぜひ知っておいていただきたい制度です。


●制度の概要

各大学院で学生支援機構の「無利子(第一種)」奨学金を借りている人数のうち、3割を半額免除、1割を全額免除にする制度です。

流れとしては

学生が大学側に申請(卒業間近の2月頃)→大学側が選考(3月頃)→大学が学生支援機構に推薦→学生支援機構が選考結果を発表(卒業後の6月頃)

となります。ポイントは「選考を行うのはあくまで大学」ということです。学内での競争なのです。東大生より優秀である必要はなく、あくまで自分の大学内で上位3割に入ればよいのです。ここは学歴ロンダリングを考えている学生にとってもポイントです。今の大学より上位の大学の大学院に進学すれば、就職には有利かもしれない。しかし、奨学金の返済免除は取りにくくなるかもしれない。それだったら今の大学のままで院進したほうがいいかもしれないのです。この点についてはよく考えるべきだと思います。

●で、いくら得するの?

修士課程の第一種奨学金の場合、月額5万円または8万8千円のどちらかを選択して借りることになります。月額8万円借りていた場合、

8.8万円×12ヶ月×2年=211.2万円

なので、総額200万円強となります。たとえ半額免除であっても100万円以上減額されるのです。

ちなみに、免除を申請しなかった場合の返済シュミレーションを学生支援機構のサイトでしてみたところ、

12571円/月 を14年間

となりました。ストレートで修士課程を修了して就職したとすると、24歳~38歳で毎月1万円以上返済していかなければいけない、ということですね。(ボーナスが入った時などに繰り上げ返済していけばもっと短くて済みます)

本題からは外れるのですが、第一種奨学金は利子がかからないので、無理に早く返そうとせず資産運用する方もいるようです。ただし、第二種奨学金の場合有利子なので早めに返済したほうがよいでしょう。注意が必要なのが、利子が付き始めるタイミングです。多いケースが「学部生時代には第二種を借りていた」+「大学院では第一種を借りていた」+「学部生時代の奨学金については修士課程在学中は在学猶予制度を利用して返済を待ってもらっている」です。この場合、学部生時代の第二種分については修士課程在学中は利息が付きません。しかし、修士課程を修了して社会人になった4月から利息が付き始めます。返済自体は卒業後の10月から始まるため勘違いしやすいポイントとなっています。もし一部でも繰り上げ返済できる貯蓄があるのならば、修了間近の3月1日~3月13日にスカラネットパーソナルから繰り上げ返済手続きをしておくと、繰り上げ返済した分については利息がかからないようです。詳しくは学生支援機構のサイトを参照ください。

●返済免除を勝ち取る為に

では本題に戻って、どうすれば「優秀な学生」と判断されて返済免除になるのでしょうか?

評価方法について、学生支援機構のサイトでは「各大学にお問い合わせください」となっていますが、「評価する業績」は学生支援機構によって定められているようです。それぞれの業績に対するポイント傾斜は大学ごとに自由に決められるようです。また、ポイント傾斜について公表している大学としていない大学があります。さらに、細かい評価方法も大学によって違うようです。(例えば、論文投稿について筆頭著者/共著者でポイントを変える大学もあれば変えない大学もあります)

学生支援機構が定める「業績」は以下の通りです。
1. 学位論文その他の研究論文
2. 大学院設置基準(昭和49年文部省令第28号)第16条に定める特定の課題についての研究の成果
3. 大学院設置基準第16条の2に定める試験及び審査の結果
4. 著書、データベースその他の著作物(前2号に掲げるものを除く)
5. 発明
6. 授業科目の成績
7. 研究又は教育に係る補助業務の実績
8. 音楽、演劇、美術その他芸術の発表会における成績
9. スポーツの競技会における成績
10. ボランティア活動その他の社会貢献活動の実績

各項目について詳しく説明していきます。

1. 学位論文その他の研究論文
・修士論文を書いた
・修士論文の出来が専攻科の中でも優れている
・学会発表をした
・論文投稿をした(そして掲載された)
などが含まれます。バイオ系修士にとってはここが一番のポイントとなります。まず、修論は基本的に皆書きますよね。ここでは差は付きません。専攻科によっては「最優秀修論発表賞」を設けているところもあるでしょう。そういった表彰を受けると加点要素になりうるので、修論発表は頑張りましょう。
そしてなんといっても学会発表/論文投稿が一番重要です。この記事で言いたいのは「とにかく学会発表/論文投稿をしましょう」ということだけです。ここが一番他の学生と差を付けやすいからです。またこの項目に関しては
国際誌>国内誌
国際学会>国内学会
単著>共著
筆頭著者>第二著者>第三著者
査読有り>査読無し
高インパクトファクターの雑誌>低インパクトファクターの雑誌
など、評価ポイントに傾斜がつけられている場合があるので、詳しくは所属大学の奨学金窓口に問い合わせてみてください。
例えば岡山大学の場合、論文投稿に関して、一報あたり英文だと4点、和文だと2点の加算になるようです。また、インパクトファクターも計算されるようですね。この場合、高インパクトファクターの国際誌投稿を目指して研究するのが良さそうです。
一方、インパクトファクターを計算しない大学もあります。この場合、
A君:渾身の研究が奇跡的にNatureに掲載された(1報)
B君:ゴミジャーナルにクソ論文を3報投稿した
の2人を比べるとB君の方が返還免除になりやすくなります。

また、バイオ系の論文は投稿から掲載まで時間がかかるため(うちの研究室ではreviseに2年かかることも珍しくありません)、「投稿した」という事実だけで業績にカウントしてくれる大学もあるようです。

最後に、ここまで読んで「じゃあ研究室から投稿しようとしている論文に共著者として名前を載せてもらえばいいじゃん。教授にお願いしてみよっかな〜」と思ってしまった学部生がいるかもしれませんが、論文作成に関わっていないのに共著者に入れてもらう行為は「ギフト・オーサーシップ」と言って研究不正にあたるのでやめましょう。

2. 大学院設置基準(昭和49年文部省令第28号)第16条に定める特定の課題についての研究の成果
3. 大学院設置基準第16条の2に定める試験及び審査の結果
この2項目は専門職大学院(ロースクールなど)で、修論を書かずに修了する場合なのでバイオ系修士学生にはあまり関係ない項目です。

4. 著書、データベースその他の著作物(前2号に掲げるものを除く)
こちらもあまり関係ないですが、総説を書くなどした場合に業績に含まれます。

5. 発明
特許を取った場合です。あまり関係ないでしょう。

6. 授業科目の成績
細かい基準は大学によって異なります(「Aが90%以上で10点加算」や「GPA×10」など)が、できるだけ好成績を修めましょう。

7. 研究又は教育に係る補助業務の実績
TA, RAなどです。できるだけ参加しておきましょう。研究室内で先生のお手伝いをして大型研究予算(科研費など)からアルバイト代を貰っている場合は「その他補助業務」に含まれる可能性があるので学務に問い合わせてみましょう。

8. 音楽、演劇、美術その他芸術の発表会における成績
9. スポーツの競技会における成績
この2項目はバイオ系修士には関係ありません。

10. ボランティア活動その他の社会貢献活動の実績
学会運営補助などが業績と認められる場合があるようです(名古屋大HPより)。

●結論として、返還免除になりたいならば

<現在修士課程の学生>
研究を頑張りましょう。学会に積極的に参加しましょう。そしてなにより、返還免除申請をしましょう!申請しないと何も始まりません。必要な書類は早めに揃えておく事をオススメします。

<これから修士課程へ進む学生>
入る研究室をよく選びましょう。教授は学生想いか?ラボの方針として修士課程の学生がどれくらい学会発表/論文投稿させてもらえるか?卒業生たちは返還免除を勝ち取れたか?よく情報収集してよく考えましょう。

●おわりに

色々書きましたが、上記の方法はあくまで「学生支援機構の奨学金返還免除になる為にはどうしたらいいか」についてです。

個人的には、そんなことのために業績稼ぎのつまらない研究をするのはなんだか違うよな〜と思っています。

また、将来研究者として大成するために大きな研究室に行こうと考えている学部生もいるかもしれません。大きな研究室というのは大抵、その分野で先駆的な研究をやっていて勉強になり、しかも人脈ができます。研究者人生において人脈は非常に重要です。その一方で修士課程の学生は軽んじられる傾向にあり、学会発表や論文投稿はさせてもらえないかもしれません。目先の200万か、充実した研究者人生か、どちらが大事かは自分でよく考えるべきだと思います(もちろん学生想いのビッグラボもあります)。


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