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イカの日に寄せて───たぶん最初で最後のイカリング

全世界のイカをこよなく愛する紳士淑女のみなさま、ごきげんよう。イカの日お慶び申し上げます。


『毎月10日はイカの日』



この街(note)でひそやかにしめやかに、しかし確かな熱量をもって祝われている月に一度の祝祭・イカの日。昨年はなかなか参加できなかったけれど、今年はなるべく機会を逃さず白きビッグウェイヴに乗りたいよね!と、元旦からひそかに決意していた。

その甲斐あって、ようやくイカの日当日にイカの日メニュー記事が発信できそうで、誇らしさに鼻の穴が膨らんでいます。まあ、作ったのは昨日なんだがな

いくら新年の幕開けに固めた決意と共にあろうとも、めんどく星人が週明けの平日夜に生のイカを調理するなんて無理ゲーが過ぎるふるまいでしかない。時間的にも気持ち的にも余裕がない状態でイカに挑もうものなら……間違いなく墨袋を粉砕して着衣と心に生涯消えない汚点を刻むことは必至。よって三連休の最終日、精神と時に余裕をもってイカを仕入れに行き、そのまま台所に立つことにした。

週明けからのお弁当おかずも仕込みたかったし、せっかく時間があるんだからちょっとひと手間かけたくなるのが乙女心といふもの。

今回はイカリングをこさえてみることにした。


まずはイカの解体から。ボディ部分に手を突っ込んで、胴体から足と内臓を引き抜く。胴体を軽く水洗いしたら、背骨(仮名)を身から剝がすようにしつつ抜き取る。この時たとえ途中で背骨(仮名)が折れても決して己の心は折らないこと。ぬるぬる滑って毎回苦戦するんだけど、コツとかあるのかしら……。

引き抜いた足&内臓組は、目玉の下あたりから足を切り離し、水洗いして吸盤を除去。

最近イカスミが冷凍保存できるという素晴らしい情報を得たので、墨袋を慎重に切り離し、指でしごき出すようにしてイカスミも確保した。


解体完了。6パイのイカを処理したというのに、背骨(仮名)の美品はたった一本しか回収できなかったあたりに、仕事の荒さがお察しいただけましょうや。

イカスミは、いつぞやの漆黒にならなかったリゾットのリベンジ・マッチまで冷凍庫で待機していただく予定。いやしんぼうなのでさりげなくイカワタもちょっと確保した。

今度こそ闇属性の呪術スペルを完成させたい。


で、この胴体と足を貴族のラップでピチットし、しばし冷蔵庫にてお休みいただく。


久しぶりのピチット!

イカリングのレシピを調べていたら、判で押したかのように「水気をよく拭いましょう」「水気は油跳ねのもとです」「拭い去れ!」「一滴たりとも残してはならぬ!」みたいな文言がずらずら出てきたんで、ならばピチットしかあるめぇよと思った次第。林家ペーパータオルでていねいに水分除去しても、もちろんよいです。


2時間くらいピチットしたのち、適当な大きさにカットしてから片栗粉をまぶし、さらにバッター液(たまご・マヨネーズ・小麦粉・水・ほりにし少々)→パン粉をつける。パン粉がちょっとしっとりして身に馴染むくらいまで落ち着いたら、あとは油でジュワー!


相変わらず大活躍な中華鍋。今年もよろしくな

ジュワーしてる時からなんともかぐわしいイカのかほりが台所に満ちる。こんなものを吸引してしまったら、当然がまんなどできなくなるのが人の宿命さだめといふもの。揚げたてをひとつ頬張ると、サクッと揚がった衣の中からぷりりと小気味良い歯ごたえのイカ、そして海の香りが勢いよく飛び出してきた。うーん、どちゃくそめちゃんこおーいしーい!!!

その直後に事件は起こった



調子に乗って1ローテごとに揚げたてをぱくつきながら、4ローテ目を中華鍋にぶちこんでいた時のことである。


パァン!!!!!



「もう今夜の晩ごはん立ち食いでよくねぇか」等と悦に入っていた私の横っ面を張り飛ばすがごとき轟音(あくまで個人の感想です)が鳴り響き、イカリングでパンパンに膨らんでいたほっぺに熱い痛みが走った。

うぁっちい!と絶叫しながらのけぞった私の目に飛び込んできたのは


フライパンから飛び出したゲソが、油まみれの肢体をしどけなくコンロに横たえている姿。


エッ……何これ、何これ?

ひょっとして油が跳ねた勢いで、イカがフライパンの外にダイヴした……ってこと……???

ほっぺの痛みも忘れて立ち尽くしていると、さらにもう一体のゲソが「ッッッパァン!!!!!」という先ほどよりさらに強化された轟音(あくまで個人の感想です)と共にフライパンから跳躍し、台所の床に着地した。



何これ怖



いやいやいやイカを油でジュワーすると跳ねやすいってのは聞いてたよ?聞いてましたとも!でもフライパンから跳躍するなんて聞いてねえよ!!!


つまみぐいでウキウキしていた精神はたちまちスンッ……となり、その後はマスクを装着(顔面への被弾対策)、超へっぴりごしで残りのイカをジュワーした。

「これはアレよ、私が今骨という骨を抜かれまくっているウルトラ戦士・ゼロ師匠がフライパンの向こうで『俺のビッグバンは誰にも止められないぜ!』っておっしゃってるのよええきっとそうなんだわ」等と自己暗示を試みてみるものの、そんな私を嘲笑うかのようにその後何度もイカがパン!パパン!と弾けやがられるもんだから、到底精神を立て直すことはできなかった。当然つまみぐいも中断。

リングは跳ねないんだけど、頭の部分とゲソ(ゲソ、お前だよ!お前はしゃぐのもいい加減にしろよ?!)のターンになるともう阿鼻叫喚の地獄絵図。ちょっと揚げすぎになるかなあと思って衣をつけずにおいたゲソの一部は、可及的速やかに冷凍庫へと押し込んだ。お前なんぞもうジュワーしてやるもんか!ばーかばーか!


で、なんとか揚げあがったイカたちを千切りキャベツと共にお皿にホイ。できあがり。



先ほどまで私を恐怖のどん底に突き落としていたゲソの野郎どもも、スンッとした佇まいで鎮座ましましている。お前らなに「いえ、自分全然人畜無害の揚げ物ですから」みたいな顔してんの?私は騙されませんからね!


ゆとりを持って挑んだはずの初イカフライ作りは、メンタルをぼろぼろに擦り減らすことになってしまったけれど、味はやっぱりどちゃくそめちゃんこおーいしーい!カリっとサクサクに仕上がった衣の香ばしさ、ぎゅぎゅっと濃縮されたイカの旨み。揚げたてほやほやのプリプリ食感もいいけれど、ちょっと冷めちゃった後でもさくっと歯で簡単にちぎれる歯ごたえで、これまたよきよき。トンカツほどは重くなく、エビフライよりは庶民的な、ちょっぴりジャンクなスナック感覚のお味。そこに千切りキャベツのしゃきしゃき感と、ほんのりした甘みがベストマッチだ。バッター液にちょっと味つけしたのも良かったな。ソースも一応用意したのだけれど、結局イカリングにはほとんど使わなかった。ああ、おいしかったー。ごちそうさまでした。


例によってたくさん作ったので恋人と弟一家にも味見を依頼したのだけれど、ありがたいことに好評だった。また作ってね!とうれしいことも言ってもらえたけれど、たぶんもう自分では作らない気がしている。だっでほんどうに……こっ……ごわがっだんでずよおおおお!!!!!



【おまけ】

イカリングを届けがてら子守り係に参上したら、義妹ちゃんがまーたとんでもない萌えごはんを作っていた。


きゃわわの極みが過ぎやしません?これ。

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