見出し画像

雪と犬

 昨日は首都圏でも雪が積もりましたね。夜、友人のひろしさんとこんな会話をしました。

 僕は犬派か猫派かというと猫派なのですが、犬が嫌いなわけではありません。どちらかといえば猫派という程度で、犬も好きです。かわいい。

 昔、実家では犬を飼っていました。僕が生まれる少し前にうちへやってきたメスの犬で、名前はココ。うちの犬なのに、ココの名付け親は隣に住んでいた僕のいとこでした。いとこが好きだった往年のアイドルグループ・CoCoにちなんで名前を付けたのだそうです。正月に親戚が集まる場では毎年のように、いとこがアイドルの名前を犬に付けたネタが話題に上るのでした。なぜ親戚の集まりは、いつも同じ話で盛り上がるのでしょうか。それはさておき、僕はポケモン緑を始めた時、最初に貰ったゼニガメに「ココ」と名付ける程度にはココを好きでしたし、由来のCoCoに関係なく、ココという響きもかわいくて気に入っていました。

 ココは雑種でした。父の説明によると「アイヌ犬と何かの雑種」とのこと。今では北海道犬と呼ばれることが多くなったアイヌ犬と、得体の知れない何かの子だったココの毛並みは、モフモフと言えるほど柔らかくはなく、ちょっとゴワついていました。モフモフとゴワゴワの雑種でした。ちなみに、雑種のことをミックスと呼ぶのは嫌いです。かっこつけているように感じるからです。また、犬の大きさに詳しくないので勘なのですが、おそらく中型犬に分類されるサイズだったと思います。「中型犬」と聞くとココのサイズを思い浮かべます。それが正しいのかどうかは知りません。自分の中の中型犬の基準がココのサイズというだけです。

 北海道原産の血が流れていたからなのか、ココは雪が大好きでした。雪が積もるとリードを放してやりました。解き放たれたココは、田舎特有の余白の多い敷地内をハツラツと駆け回るのです。実家のある三浦半島南部は数年に一度程度しか雪が積もらないので、ココとの雪の思い出は片手でも余るくらいしかありませんが、今でも積雪があるたびに、真っ白な庭を走りながら僕のほうを振り返り「おまえも早くこっち来んかい」とでも言いたげなあの顔が脳裏に浮かんできます。

 僕が中1で12歳か13歳の頃、保健所か何処いらから「ココちゃん15歳おめでとう」的な長寿表彰の通知が来て、犬の15歳って長寿なんだなと知ると同時に、ココの老い先もそう長くないことを意識しました。実際、翌年の夏になると、ココは急激に衰弱し入院してしまいます。元々は庭の小屋に繋いでありましたが、病院から帰ってきてからは家の中にいました。犬にも「今夜が峠」的な日はあるもので、家族みんなその日でお別れかもしれないという覚悟を強いられたのでした。夜、息も絶え絶えに力なく横たわるココの体を僕は一晩じゅう撫でていました。呼吸はいつの間にかなくなっていました。

 ここでおさらいをさせてください。ココが死んだのはココ自身が16歳くらい。僕が中2で14歳になる少し手前の時分です。僕は1986年生まれ。ココは僕より2歳年上の1984年生まれで、ちゃんと登録されています。さて、もう一度言います。ココの名前の由来は、CoCoです。石井琢朗に食い荒らされたとされる往年のアイドルグループ、CoCoです。

 僕もココも、グループとしてのCoCoより歳上です。では、毎年正月に語られていた「いとこによるココの名付けエピソード」は一体なんだったのでしょうか。もしかしたらココ山岡にちなんで名付けられた可能性もありますが、ココ山岡の全盛期もCoCoの活動期間と被るような気もします。ココの生年に間違いはありません。途中まで名前がなかったとか、改名したなんて話も聞いたことがありません。この矛盾に気がついたのは数年前なのですが、今回の雪で思い出した次第です。

 ココの両親を「アイヌ犬と何か」などと曖昧に答える父に聞いても疑問が晴れるとは思えないので、この謎はココの思い出とともに僕の胸に仕舞っておくことにします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?