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不要な選手なんて、いない。

終盤に入り、欧州リーグは過密日程が凄まじい。私が可能な限りリアタイを心がけているマンチェスター・シティも、CL準決勝と、リヴァプールとのプレミアリーグ頂上決戦、FAカップセミファイナルを終えて、PLのさらなる日程消化に向けて無心に心身を休めていることだろう。

そのFAカップでのリヴァプール戦において、ペップはGKにエデルソンではなくステッフェンを起用した。これまでもFAカップではその選択だったが相手はリヴァプールである。何か意地のようなものを感じた。

そして痛い失点をした。ステッフェンの一瞬の迷いを猛烈なプレッシングでかっさらっていったマネによる得点だった。ハーフタイム、同じくリアタイしていた友人は、「GKは、可能なら変えた方がいい」とメッセージを送ってきていて、そうだねと返した。が、きっと変えないだろうペップはと思っていた。

思い出したのは去年のCLセミファイナル、シティvsパリ。確か5月だったのに雪混じりの試合だったと思う。この日はフェルナンジーニョがアンカーでキャプテンマークを巻き、ジンチェンコがSBで出ていた。後半70分ごろ、ちょっと試合が荒れて、直接関係してないフォーデンが蹴られて、それを見たジンチェンコが激おこで、ちょっと制御が効かない感じになってしまった。いいヤツだけど喜怒哀楽の感情がハツラツするタイプなので、この激情ぶりはヤバいのでは、点差とか残り時間考えても、交替しといた方がいいのでは、と思った(たしか1枚イエローももらっていたような)。

でも、ペップは変えなかった。勝ったからよかったようなものを、もし負けてたら何を言われるかわからんだろうに…、と思った瞬間、ああ、だからか、と得心したのを思い出した。

ジンチェンコは味方がやられてるのを許せない、マジ怒りするいいやつ。確かにあのままの感情がプレーに出てしまったらもう1枚イエローくらって10人になってしまうリスクもある。でも、今日はピッチにフェルナンジーニョがいる。あいつがいれば大丈夫だろう。ジンチェンコが冷静さを欠いたままプレーに戻り、キャプテンがそれをコントロールできず、ゲームをひっくり返されるようなことがあったら、リスク管理を怠った自分が責められるだろう。だが、ここで冷静さを取り戻す経験、取り戻させる経験、取り戻させてもらった経験、そういう難しい感情をコントールする2人と共にプレイを続ける経験を積むことこそ、こいつらには必要なんじゃないか、と失敗した時の責めをすべて負ったんじゃないだろうか、ペップは、と明け方にボーゼンと嘆息したのを思い出した。

実際がどうかは、もちろんわからない。けど、だから、試合終わって感情的に泣いてたジンチェンコが大好きになったし、ペップすげーな、と思ったのだった。

で、昨夜のFAカップvsリヴァプール戦も、ロドリじゃなくてフェルナンジーニョ。ウォーカー(怪我だけど)じゃなくてジンチェンコがスタメン。さらに、エデルソンじゃなくてステッフェンだった。試合開始前は、この5月のパリ戦を連想してなかったけれど、2失点した時は頭をよぎった。あぁ、フェルナンジーニョが出るべき試合だったのだなと。

だから友人から「変えるべきだね」と言われ「そうだね」と返したけれど、絶対変えないだろうと思っていた。この3点ビハインド、さらに、まったく思ってるサッカーができていない状況(決してステッフェンだけが悪いんじゃない)を、どうやってひっくり返すんだ?と選手たちを煽るペップの姿が想像できた。
具体的な戦術指示も与えたかもしれないけれど、後半に入るとベルナルドが最終ラインまで落ちてビルドアップに参加したり、ファイナルサードに入る前に、ファールすれすれのタックルで相手をつぶすフェルナンジーニョには、「おまえだけの失点じゃない」というステッフェンへのメッセージが見えた気がした。

90分、最終的に、GKはステッフェンのまま、シティは2点を獲り、後半は無失点で締め、2-3で試合は終わった。FAカップは準決勝敗退で終了。結果は出せなかった。でも、それ以上のものを得たゲームだったのではないかと思った。ペップの「変えない」選手起用という選択により、多くのものを得た試合だったように私は思った。

フェルナンジーニョにキャプテンマークを巻かせる、ということは、試合の中で起きる、ミスも含めたアクシデントによって起きる選手たちの感情の揺れ、それによって生じるプレーのブレやピンチ…そういったものは、キャプテン中心に、ピッチ内の選手たちで収束させるべき問題なんだよ、というペップのメッセージ。

フェルナンジーニョは今期で退団すると発表している、次期キャプテンは、ルベンディアスかKDBか。次にキャプテンマークを巻く者も、それを引き継ぐ責任を背負って欲しいし、最初は同じようにできないかもしれないけど、だったら、周りが同じ責任意識を持ってゲームをコントロールするんだよ、というペップのメッセージ。

最終ラインからボールをつなぐというサッカーをする以上、プレス強度が高く、フィジカル最強の選手が鳴り物入りで入ってくるこのリーグでGKをするということは、常にマネの襲撃プレスの危機を感じながらビルドアップすることになるんだよ、これはステッフェンだけに起きることではない、というペップのメッセージ。

だからこういう失点は起きる。事実「あわや」という場面はいくらでも経験しているじゃないか!!(PLでのエデルソンだって紙一重だ)そんな失点をした後、当人がそのストレスを乗り越えてプレーを再開するのはもちろん、周りのFPたちも一緒に乗り越えなければならない、そうじゃないのか?というペップのメッセージ。

難しいメンタルをどう乗り越えていくか?というステッフェンに対するメッセージ。同じGKであるエデルソンへのメッセージ。「変えない」というメッセージ。たっくさんのメッセージを、私は勝手に受け取った。

DAZNは最近、試合が終わるとサクッと中継を切ってしまうので、試合後のピッチの様子をスタジアムとともに味わうことはできなくなってしまったのだけれど(できれば30分ぐらいは無為に映しておいてほしい)、Twitter等で得た情報では、試合終了後には、GK仲間であるエデルソンとカーソン、キャプテンマークを巻くことも多い、怪我明けのルベンディアス、デ・ブライネなど、いろんな選手が駆け寄っていて、ペップのメッセージはしっかり伝わったのではないかと思った。

おそらくすべてのタイトルを(本気で)求められているペップにとって、落としていい試合などなく、このFAのリヴァプール戦も、いろんなことを考えてこれがベストメンバーと送り出したスタメンだったのだと思う。ただ、こうした「ミス」と周りからは言われるような失点につながるプレーに、どう対応するか?を見ていると、ただただ、目の前の試合に勝つこと、タイトルを獲ることだけを目指してるんじゃないのでは?という気がしてくる。

この最高峰のプロフェッショナルな世界の中で、育成年代のように「育成優先で勝利は目指さない」などということはありえない。でも、失敗をどう乗り越えるか、失敗をしてしまった仲間にどう接するか、それでも勝利を目指さなければならない難しい局面で、自分はどう振る舞うのか? どう仲間に影響を与えるか? 「さあ、どうする?」と選手たちを信じて交代カードを切らなかったこの試合は、いろんな人達の記憶に残ったと思う。そして、自分が失敗した時や、仲間が失敗した時、部下が失敗した時に、自分はどうふるまうべきか?を考える時に、映像として表れ、その人の勇気ある行動を後押しするのだと思う。そういう人が一人でも多く生まれる場所は、きっとサッカーも強くなると思うし、あらゆる分野において、強いチーム、組織になるのだと思う。


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