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マネジメント・バイアウト(MBO)を計画し実行する

こんにちは。WizWeの森谷です。
前回は、本格的に語学事業のMBOに向けて動きを開始することを決めたところまでお話ししました。いよいよ、MBO成立に向けて動きだします。

MBOの計画と準備

WEICから語学事業を継承する計画は、繊細なバランスと交渉の連続でした。今思い返しても、マネジメント・バイアウトの実現のために、お力添えをいただいた皆様に本当に感謝しかありません。WEIC経営陣、社員スタッフの皆様、そして、WEIC株主の皆様、繊細なバランスの中、当時の希望を通していただき、本当にありがとうございます。

本格的にMBOを目指すことを心に決めたのが2017年初頭でしたので、それから1年半という期間を要しました。クリアするべき壁が多く、一つずつ階段を踏み締めていき、最終極面のラスト3ヶ月に「ドン」と大きな壁が立っているような道のりでした。MBOのためのエクイティ調達の契約書は期日の前日に押印が全て揃うというギリギリのスケジュールでした。そのため、最も確率が高い押印手段として自分が新幹線に乗って、大阪、名古屋をめぐり、自分の目の前で投資家の皆様に押印をいただきました。昨日のことのように思い出します。

2018年1月の段階で私はWEICの取締役を務めており、取締役の責務としてWEICの事業成長に寄与する必要がありました。逆に言うと、取締役を務めている限りは、具体的なMBOの動きは開始できない状況にあると考えていました。

取締役の任期は2年。それまでにも辞めることは可能ですが、その場合は、任期途中で取締役が退任する形になり、スタートアップにとってはマイナス印象になると考えていました。

こうしたことから、任期満了に伴い、次回の取締役に立候補しないという方法をとることにしました。2018年3月までは任期を務めました。2018年4月からは、社員としてWEICに雇っていただき、一人の社員としてWEICで働きながら、準備をしていきました。
※尚、社員としてバイアウトを実行していったので、厳密には、私が行ったことは、エンプロイー・バイアウト EBOとなりますが、MBOよりも更にマイナーなコトバなので、メジャーなコトバに寄せて、マネジメント・バイアウト MBOを実行したと言っています。

しかし、時間は殆ど残されておらず、タイムリミットは、4月、5月、6月の3ヶ月。6月15日には総額の半分の着金、6月29日に全額着金となる必要がありました。そのスケジュールが実現不可能な場合は、私でなく他の事業者様が教育事業を買収する可能性がありました。

MBOによる事業継承の資金を確保するにはいくつか方法がありますが、私のとった方法は、投資家様を見つけ、株式と引き換えに資金調達をする手法でした。エクイティ調達と言われ、スタートアップ業界ではよく出てくる手法となります。

こうした際の資金の出し手は、エンジェルと呼ばれる個人の出資者(多くの場合は、事業で成功された方で、起業家を応援したいという思いをお持ちの方となります)、事業会社(双方にメリットがあるパートナーシップが樹立できれば話がまとまることがあります)、そしてベンチャーキャピタルとなります。

起業には様々なやり方がありますが、自己資金でなく、外部資本を受け入れるという点で、その会社の将来としては、株式公開(IPO)を目指す、あるいは、どこかの事業会社に吸収合併してもらう(M&A)に定まってきます。
※もちろん事業会社様との協力関係を続けて価値貢献するという方法もありますが、メインシナリオとしては、やはり、事業を切り出して、IPOを目指すという方向になります。

「学習を最後までやり抜くサポートを磨き上げ、社会に広げていきたい」「自分がお世話になったWEICの語学事業部を母体にして行いたい」という想いから、バイアウトを決意しました。ただし、それだけでは、資金は集まりませんので、その事業が、5年後、10年後、あるいは50年後、どんな姿になっているのか」、「どうして、森谷が、その姿を実現できるのか」、「本当にできるのか」、「なぜ他の誰かではなく、森谷が、それができるのか」という問いへの答えを考え続け、かつ、事業が大きく成長する方法をプレゼン資料にまとめていきました。

具体的な成長戦略を含めた事業計画を5年分準備し、主要KPIや売上単価、LTV、組織構成など、Excelとプレゼン資料にまとめました。あらゆる数字が説明可能であり、かつ今の現実も反映している必要がありました。ロジックの組み合わせと積み重ねによって、自分の頭の中では、しっかりと伸びる未来解像度となりました。

実際に、MBOシリーズの際の事業計画のシートは、今もWizWe事業計画の基盤の一つになっています。ただし、起業やエクイティファイナンスについては完全に素人でしたので、これらに関わる本をどんどん読みながら、同時にたくさんの人に会って、学びながら走るという日々でした。
(尚、現在=2021年10月時点では、私だけでなく、各事業責任者が計画をつくり、経営会議や株主報告などを通じて改善して、まとめていくという、ボトムアップも組み合わせたプロセスになっています)

資金調達

資金調達において、一番の課題は、時間でした。通常ベンチャーキャピタルの検討期間が最低3ヶ月で、創業間もない段階の事業者だと、4~6ヶ月はかかることが一般的でした。MBOに向けて動き出した4月の1週目に、いきなり、時間制約と言う大きな壁が立ちはだかることになりました。
(ただし、水面下では勉強を重ねていたので、エンジェルや事業会社トップであれば、短期でも話がまとまるということは知っていました)

ベンチャーキャピタル様についても複数お話する中で、現実線のメインシナリオとして、私、森谷幸平という個人に賭けてくれそうであること、という軸から、仕事上の事業パートナー様や、周囲で定期的にアドバイスをくださっていた方々に、出資のご相談をしていきました。

今でも感謝してもしきれませんが、最も早い段階から、手を差し伸べていただけたのが、外国人留学生の採用の事業をされている、株式会社オリジネーター様です。同社とは、私がWEICに入社した頃から、まだ外国人採用が日本では非常に稀だったころから、外国籍人材への日本語教育事業でご一緒させていただいており、実に様々な企業様の大きな日本語プロジェクトをご一緒していました。同社専務の工藤さんとは長年の戦友であり、心から信頼できるパートナーでした。オリジネーター様には、早々にMBOシリーズにおける、リード投資家としてサポートをいただけることになりました。

また、同社社長の長谷部様へのピッチの際に、同席されていたのが、創業期よりずっとWizWeで社外取締役を務めていただいている田中浩嗣さんです。

(2018年5月 MBOシリーズのリード投資家としてオリジネーター様、長谷部社長、および長谷部社長のリクルート同期 田中浩嗣さん、にて合意締結。記念写真を撮る。
この契約締結をきっかけにWizWeとしての物語が始まった。
中央左 オリジネーター長谷部社長、 左 田中浩嗣さん、右 オリジネーター工藤取締役) 

ここで、話は少し、スタディサプリENGLISHに飛びます:

実は、WEIC在籍時に、リクルート様がスタディサプリENGLISHをリリースし、社会人向けの展開を開始されていました。私はスタディサプリについて知ったその日に、リクルート様のホームページの問い合わせフォームから、直接、パートナーシップを希望する旨の打診をしました(メッセージには、先方にどういったメリットがあるのか詳細に記載しました)そうしたら、何と返信があり、商談にはスタディサプリENGLISHの事業責任者の方にもご同席をいただきました。そして、法人向けの展開で協業することになりました。その後、様々なプロジェクトでご一緒しました。

という経緯があり、2018年の時点では、既に法人様において「スタディサプリ×完走実現サポート」というサービスで素晴らしい成果実績が上がるようになっていました。
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実は、田中浩嗣さんは、リクルート様がスタディサプリの原型である受験サプリを立ち上げられた際に、カンパニー長をしていらっしゃった人でした。懸命に習慣化とやり抜くメリットをピッチで訴求した所、私の話や事業スタンスに共感をいただけたようで、エンジェルとしてご出資いただけることになりました。

尚、ピッチをしている最中は、田中浩嗣さんがどのような方かの詳細を知らないまま懸命に話をしていたのですが、後でどんな方か知り、大変驚くと共に、人の縁の不思議さも感じました。長谷部社長は田中浩嗣さんとリクルート社の同期でした。

(※数奇なもので、MBOの1年半後にも非常にありがたいご縁がありました。私がWEIC時代に営業支援事業の責任者を務めていた際に、ご縁のあったスタッフサービス様という会社において、当時鬼頭様という方が社長を務めていらっしゃいました。鬼頭様は、長谷部社長と田中浩嗣さんとリクルートの同期でもありました。

MBO完了の1年半後である2019年12月に、WizWeは、はじめてベンチャーキャピタルからの出資を受けるのですが、鬼頭様は、WizWeのリード投資家となるモバイル・インターネットキャピタル様のアドバイザーを務めていらっしゃいました。2019年12月に鬼頭様もWizWeへご出資されることになりました。人の縁は本当にありがたいと心から思います)

(鬼頭秀彰氏 モバイル・インターネットキャピタル様 通称MICにリード出資いただいたラウンドでエンジェルとしてWizWeに出資いただいた)

事業買収に必要な資金を集めるには、まだまだ出資者が必要であり、パートナー様には全てお声がけしていきました。当時、あるオンライン英会話のサービスを販売代理し、完走実現プログラムでサポートしていましたが、その会社が大手企業様に買収されていました。

そこで、オンライン英会話事業の部長に私のMBOの希望と構想をお電話と共に、資料でお伝えしました。なんと、親会社の創業社長 稲吉様に繋いでいたただくことができ、ピッチの機会に恵まれました。本当にお忙しい方なのですが、大変貴重なお時間をいただけたことを、本当にありがたく感じると共に、ピッチには一瞬たりとも無駄が入ってはいけないと気合を入れました。

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO07591420U6A920C1000000/
(出典 NIKKEI STYLEキャリア NOVAホールディングス 稲吉社長)

お会いした瞬間に、全てを把握され、私という人間や、話す内容の本質を一瞬で捉えていらっしゃるように感じ、ピッチをしていて手が震えました。資料は50ページ強準備しましたが、大変お忙しい方なので、ピッチはメインを10分ほどでまとめ、ご判断を待ちました。

結果、その場で「出します」「仲間だと思っているので」ということでした。そして、本当にありがたいことに、完走実現プログラムに興味を持ちそうな事業者様をご紹介してくださいました。お蔭様で、他の事業会社様(見果てぬ夢様)からもご出資をいただけることになりました。

MBO資金の調達は大詰めを迎えており、残りの出資枠については、エンジェルである個人を頼ることになりました。早稲田大学の白木教授の研究会でお会いして以来、私のメンターを務めてくださっていた浜崎様は、オムロンインドの社長を務められた後でした。

(浜崎伸也氏 2010年 早稲田大学トランスナショナルHRM研究所の白木三秀教授のセミナーでご講演されていた。高校の先輩であることが分かったため、名刺交換し、それ以来、定期的にアドバイスをいただいていた。MBOシリーズでエンジェルとしてご出資いただいた)

出資をお願いすると引き受けてくださいました。社外取締役にもご就任いただきました。また、Austin Auger講師も出資を引き受けてくださり、後にルース・マリー・ジャーマン様(ルーシーさん)が株主になられました。

(左 Austin Auger氏 グローバル研修のパートナーであり大手企業研修の講師を務めて頂いた。当時現役の外資系日本法人の経営層。中央 ルース・マリー・ジャーマン氏 リクルート創業者の江副氏が採用した同社第一号のアメリカ人女性社員。私にリクルート社の経験は全く無いが、MBOの時点で、株主にはリクルートOBが並ぶことになった)

ルーシーさんとは、私が中国赴任中に、西安市政府の主催する親睦会で知り合いました。「日本に帰ったら一緒にビジネスをしましょう!」とその場で互いにお話し、実際に日本に帰任した後に、大手企業様のグローバル人材育成の研修で、Austin様と共に、実に多くのプロジェクトをご一緒いただきました。

また、サントリー様のプロジェクトでお会いした、当時PwCで人事コンサルティング部門の代表を務めていらっしゃった若林豊様は、2018年にはICMGというコンサルティングファームに参画していらっしゃいました。MBOの話をすると、支援をしていただけるという話になりました。また、ありがたいことに社外取締役も務めていただけることになりました。

(若林豊氏 サントリー様のグローバル人材育成プロジェクトにて、知り合い、そのご縁がきっかけで、創業期にエンジェルとしてWizWeへ参画いただいた)

こうして、エンジェル陣に自分自身の自己資金を加え、初期の株主構成が整いました。

今考えても、出資いただいた方の全てが、長年のパートナー様や、パートナー様経由でのご縁であり、パートナー様があってこその私たちだと改めて感じています。お客様、パートナー様など関係する皆様の目的や利益を最初からしっかりと考え、パートナー様に貢献しながら事業を伸ばしていくというWizWeの現在のスタンスは、MBO以前からの歴史によって醸成されていったように思います。今も、共に成長するマインドと、パートナー様の実利を真剣に考える仕事の在り方は、WizWeバリューの中核を担っています。

MBO成立

4月に資金調達活動を開始し、5月末の段階で、必要資金が集まり、6月2週目までに契約書を締結し、6月中に払込を完了しました。

エクイティ関連の初期資本政策やMBOシリーズのバリュエーション設定については、税理士の安田先生からご紹介いただいた、株式会社スーツの小松社長に多大なお力添えをいただきました。

尚、エンジェルと事業会社様から何とか出資金が集まりましたが、実は、メガバンクだと会社の口座が開設できないかもしれないという問題も生じていました。「事業実績がない状態の会社の口座は開設できない」と複数の銀行で言われました。

そう。事業の実態があるのはWEICであり、設立したばかりのWizWeには事業実績がありません。MBOで買収してはじめて事業開始となります。なんと、出資者があつまったのに、銀行口座が間に合わない可能性がありましたが、小松社長にご紹介をいただいた、みずほ銀行様が、特急スピードで口座開設をしてくださいました。同時に創業資金として2000万円のご融資もいただけることになりました。

本当にギリギリで全てがまとまったため、冒頭に記載した通り、郵送では押印が間に合わず、私自身が、自ら新幹線に乗り、関西、愛知で押印をしていただき、東京で全投資家様を訪問して、押印を集めました。全員分の押印が完了した契約書を持って、出資金の振り込みが完了しました。全ての押印が完了したのは、振り込みの前日のことでした。

こうして、無事資金が集まり、マネジメント・バイアウトが成立することになりました。

尚、共に働いていた語学事業の社員にとっても大きな影響がある動きとなるため、MBOの実現性が高まった時に、語学事業に関わる全員に将来についての希望を聞きました。その結果、全社員がWizWeへと転籍することになりました。

ずっと想い描いていた事業がスタートできるという希望が大きく晴れやかな気分になるかと思いきや、実際に契約書に押印し、写真を撮影した後の気分としては、その逆で、「ズッシリ」とした重みを感じ、身体も心も重たく感じました。投資家様の資金は全て事業部買収の資金として払みましたので、エクイティ調達した資金はゼロ円になりました。みずほ銀行様からの銀行借入れを運転資金とし、経営を進めていく日々が始まりました。

(事業継承が完了した2018年7月1日 WizWeとしての事業開始初日 WEIC会議室にて撮影。
WEICからの移籍メンバーと)

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