またね。
「ねぇ、タンちゃんって中国から来たのよね」
「そうよ」
タンタンとしろくまのみゆきが、それぞれ好物のタケノコとさつまいもをかじりながら、日の当たる園庭で会話をしている。
「いいわねー、私は動物園生まれの動物園育ちだから、うらやましい」
小鳥のさえずる声が、空いっぱいに響き渡る。
「でも、わたしだって、ここに来たのは5歳の時よ?」
「そうだったわね」
みゆきは、次のさつまいもを手に取って、ムシャムシャと食べ始める。
「ねぇ、私たちの故郷ってどこなのかしら?」
「どこなのかしらねぇ」
タンタンも、次のタケノコを手に取り、口を使って器用に皮をめくる。
中のおいしそうな青々としたところを、かじり始める。
「おいしい」
「さつまいもも、おいしいわよ~」
「この時間が至福よね~」
ふたりは、ウフフフと笑いながら、それぞれの好物を頬張る。
「タンちゃん」
「なぁに?」
「私、ここに来てよかった。アイスにも会えたし、タンちゃんにも会えたから」
「うん。私もここに来てよかったって思ってる。みゆきちゃんみたいな友達ができたし」
「動物園じゃなきゃ、会えなかったわよね。ここが、私たちの故郷だわ」
「そうよ」
フフッと、顔を見合わせ二人は笑う。
遠くから「みゆおばちゃーん」と、しろくまの女の子が
みゆきを呼んでいる。
まだ、ちょっと心細そうな声だ。
「おばちゃーん、どこー?」
「あらあら、呼んでるわね。はーい、今行くわ」
白く見える体毛が、日の光に当たってピカピカしている。
「ゆめちゃん、みゆきちゃんの事、おばちゃんって呼んでるのね」
「そうよ。だって、わたくし、灘の貴婦人ですもの」
「そうでしたわね」
ほほほほと二人は笑い合う。
「タンちゃん、タンちゃんも大変だろうけれど、ゆめちゃんのこと、お願いね」
「うん」
「あのこ、まだ、子供だから」
「だいじょうぶ、任せて」
遠い場所のどんと焼きの匂いが、かすかに匂ってくる。
「タンちゃん、大好きよ」
「私も。みゆきちゃん、大好きよ」
白い大きな背中と、黒いボレロを着た白の丸い背中。
音を探すように耳が動く。
1月の冬の日差しの中、動物園に響き渡る子供の声や、
動物たちの声を聞きながら、2人は笑っていた。
1月13日、王子動物園のみゆきちゃんが亡くなったそうです。
会いに行こうと思ってた矢先でした。
日本で最高齢のしろくま。
天王寺動物園生まれの動物園育ち。
前にも言いましたが、動物の訃報を聞くと堪えるようになりました。
老いていったり、何かあって死んでいく動物たち。
故郷という場所ではなく、動物園という中でですが。
苦しまずに、痛い思いをせずに、いつものように眠るように
息を引き取っていったのは、よかったのでしょうけれど。
パンダライターの二木さんのイラストを見る度に
私だって、そのうち行くんだろうけれど、
こんなの寂しいよとつぶやきながら、涙をこらえてます。
33歳までお疲れ様でした。
向こうでアイスに会ってね。
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