「本当にかっこいい人」10

では自分のことだけでなく、他者の幸せを願える存在とは、どんな人か?
モーリスが思いつくのは、医師、である
職業としてではなく、患者のために使命感を持って従事する医師
なんと尊い存在であろうか
国境なき医師団の方々は、あえて戦場に赴き、子どもや患者の命を救うべく、日々奮闘されているという
全く頭が下がるばかりである
また、IPS細胞を創り出した山中氏の言葉で、印象的だったものがある
「IPS細胞ができたとしても、それが難病で苦しむ方に実用されなければ、何の意味もありません」
この言葉を聞いて、モーリスは胸が熱くなったのを覚えている
IPS細胞を用いた治療は、倫理観や哲学的思想までも巻き込む大きなハードルはあるが、今後大いに期待される治療法であることに間違いない
モーリスはウイスキーを飲みつつ、
「我、なんと凡庸なり!」
と自嘲気味に小さな声で叫んだ
そして、これらの「本当にかっこいい人」が見る景色とは、どんなものなのか?
モーリスには想像できなかった
「わしは凡夫じゃ
そもそも偉大になりたい、とは思わん
梅野の背中を見て、クスクス笑うのも、人生の醍醐味じゃ」
と言って窓外に目をやると、きれいな夕焼けをバックに、小鳥が羽ばたくのが見えた

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