「本当にかっこいい人」9

「本当にかっこいい人間は」
モーリスはそこで言葉を止め、おもむろにキッチンに向かい、氷をハンマーで砕き始めた
そして砕いた氷を、コップに満たした
「みのもんたは砕いた氷にウイスキーを入れて飲むのが好きじゃった
みのの人格はともかく、ウイスキーのおいしい飲み方じゃ
彼はサントリー響20年で飲む
わしは、ブラックニッカじゃ」
モーリスはコップにウイスキーを注ぎ、グイッと飲んだ
「梅野よ、こりゃうまいぞ、お前も飲め!」
誰もいないリビングに、モーリスの低い声が響いた
「本当にかっこいい人間は、自身と他者のために尽くせる人、じゃ」
我ら凡夫は、人のためだけに生きることはできない
自身の幸福を願うのは、当然の話だ
そして自身の利己主義にこりかたまらず、少しは他者に思いを馳せるのはどうか、とモーリスは思った
そしてまた、他者にだけ尽くす人もいる
こんな人は少ない
恐らく自身の悩みなどは解決済みで、他者の幸福を願う境涯であろう、とモーリスは思った
「わしはなかなかそうはいかんがのう」
と言って、モーリスはウイスキーを飲み干した

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