見出し画像

013主婦のタダ乗り禁止令

厚労省がパートタイマーの厚生年金加入(社保加入)を拡大するために、いよいよ企業規模要件撤廃に向けてアクセルを踏み始めました。というか、以前からの既定路線ではありました。
現在、パートタイマーの社保加入は101人以上の企業について、週20時間以上、月額8.8万円以上の者について適用することになっています。
それが、今年の10月からは51人以上の企業となることは決まっていました。
それが、10月にならないうちにメディア発表されちゃいました。
おそらく定額減税で国民がぬか喜びしているタイミングを見計らって公表したのでしょう。

元々、主婦の被扶養者制度については批判がありました。批判していたのはほぼ「女性」からのものです。
働く女性は、自ら社保加入して保険料を納付します。
一方、被扶養配偶者(主婦)は、会社員の夫の被扶養者となることで、健康保険はもちろんのこと、国民年金についても保険料の納付が不要でした。国民年金保険料って毎月17,000円ぐらいするのですが、それを支払わなくても年金がもらえてしまう美味しい制度です。こういうのをタダ乗り(フリーライダー)と言います。
このタダ乗りを支えているのは、扶養者である夫ではありません。厚生年金保険に加入している全員で、どこかの主婦を支えているのです。
つまり、若いころからバリバリ働いて結婚するのも忘れていたような男性や女性も、見知らぬ専業主婦を支えている構図となっているのです。

この法律ができた(施行された)のは、昭和61年4月のことです。
それ以前は、専業主婦は「任意加入」でした。
任意加入ということは、年金をもらいたければ保険料を支払う必要があります。霞が関に屯する賢者は考えました。「保険料を払わなくてもカミさんに年金を支給させるために良い方法はないかな~?そうだ!被扶養配偶者は保険料を納付しなくてももらえる制度を作ればいいんだ!名付けて『第3号被保険者制度』。2号さん(妾)はまずいからね。」というやりとりがあったかどうかは知りません。
それから約40年。何が変わったかというと、人口ピラミッドの形が、山形から寸胴型になり、働き手に比べて高齢者人口が増加し、女性の活躍は以前より進むようになってきました。
つまり、社会を支える働き手が減る一方、支えられる高齢者が増えて、限界近くまできている。だから、パートタイマーで少しでも収入あるなら主婦も保険料払ってね!というのが保険料を集める側の本音です。
マスコミは、知ってか知らずか、「パートタイマーの将来受け取る年金額を手厚くする狙い」という厚労省発表をそのまま記事にしています。
まるで中学生のレポートです。
確かに、厚生年金保険に加入すれば年金は増えます。
しかしそれは保険料を払うことで増えるのです。
今までは保険料を払わなくても年金もらえたんです。
具体例で見ます。
40年間専業主婦のAさん(なかなかあり得ませんが)は、保険料タダで年間80万円の年金がもらえます。
40年間毎月給与10万円のパートタイマーBさんは、厚生年金保険料を40年間で約910万円支払い、108万円の年金がもらえます。
10年間年金を受け取ると(年金給付額から保険料負担を差引くと)
Aさんは プラス800万円
Bさんは プラス170万円(108*10-910)
30年間受け取ると
Aさんは プラス2400万円
Bさんは プラス2330万円(108*30-910)
つまり、社保加入して年金が増えたはずのパートタイマーは受給開始から30年経過した95歳になっても、専業主婦の実質年金額に追いつかない計算となります。
もちろん、年金は老齢だけではありません。障害もあれば死亡(遺族)もあります。しかし、前回の記事の通り遺族年金はほぼあり得ません。
また、たいてい夫が先に亡くなりますが、妻がもらう遺族年金は妻の老齢厚生年金との差額なので、妻が専業主婦であっても厚生年金に加入していたとしても年金額は同じなのです。つまり、厚生年金に入っていたとしても夫が死亡したら保険料を支払ってきた意味が無いということです。

これから分かることは、国は、パートタイマーの年金額を増やすことを目的として加入要件を緩和しているのでは無いということです。
保険料が欲しいからパートタイマーにも保険料負担をさせようとしているのです。
それは全く表に出さずに、またそれを見抜けないないのか分からないのか、すっかり権力の走狗となり下がったマスコミにも時代の変遷を感じますね。

制度が悪いと言っているわけではありません。
日本の社会保障制度は、海外の制度に比べても決して劣っているとは言えませんし、むしろ、近所の国に比べたらずーっとましなほうです。それを証拠に、近所の国から日本の社会保障制度の美味しいところだけを狙って引っ越してくる人もいるぐらいです。
ならば、国は正直に言えば言い。
「高齢者が増えて医療費や年金の支払いが大変でお金が無い。だから、みんな負担して!」と。そうは言えない事情があるから、美辞麗句を使って保険料負担を増やすようなことをやっているのです。

日本の国民負担率は47%強。5割目前です。
収入の半分は、税金や保険料でとられます。

納得感のある制度にするためにも、国は正直に数字を出したうえで、公平・公正な制度作りをすべきです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?