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014 公的年金制度の損得

日本の社会保障制度は総じて優秀です。
病気をしたら、健康保険を使って低廉な金額で医療サービスを受けられます。病気で所得を失うと、休業補償までしてくれます。医療費が高額になれば、一定額以上の負担を免除してくれます。
高齢や障害、死亡で稼得手段を喪失すれば、所得補償制度としての年金が支給されます。

でも、いいことばかりではありません。
今回は、日本の年金制度の陥穽(おとしあな)を考えます。

同じ年の共働きの夫婦がいます。
夫、妻ともに40年間サラリーマンとして厚生年金保険に加入していました。
65歳からの年金受給額は夫が200万円、妻が180万円。合計で380万円。毎月30万円以上の年金額となるので、なんとか生活していけるだろうと考えていました。

65歳となり、いよいよ年金生活に入ろうとした矢先に、夫が病気で急死してしまいました。
この場合に、妻がもらう年金はどうなるでしょうか?

答えは、妻は自分の年金180万円しかもらうことができません。
夫が支払い続けてきた数千万円(約3000万円以上)の厚生年金保険料は、結果的に掛け捨てになってしまいます。
なぜでしょうか?

妻が65歳になって自身の老齢厚生年金および老齢基礎年金を受けることができるときに、同時に遺族厚生年金の受給権があれば、老齢厚生年金と遺族厚生年金が調整の対象となります。
まずは自身の老齢年金を受給し、遺族厚生年金の方が高ければ、その差額を遺族厚生年金として受給することになります。
上記例の妻の老齢厚生年金は約100万円。
次に、遺族厚生年金の金額ですが、夫が受給するはずだった老齢厚生年金の4分の3相当額となります。今回の事例では、夫の老齢厚生年金は約120万円ですから、その4分の3である90万円が遺族厚生年金の金額となります。

となると、遺族厚生年金の金額(90万円)より老齢厚生年金の金額(100万円)の方が高いので、結局遺族厚生年金の受給はできないことになります。(正確にはどちらを受給するかを選択できます)。

老後に、夫、妻の年金額を合わせて年間380万円でやりくりしていく予定が、その半分以下の金額で生活しなければならなくなるのです。

元々、夫が外で働き金を稼ぎ、女性は家庭を守るという「モデル」を想定して作られた年金制度です。
年金制度ができて80年、もうそろそろ見直してもいいのではないでしょうか?

この事例のおかしなところは、もし、妻が専業主婦で全く保険料を納付していなくてもほとんど同額の年金をもらえることです。
合わせて6000万円ぐらいの保険料を支払った夫婦と、半分ぐらいの保険料を支払った夫婦で年金額が同額というのは、当事者からしてみたら納得いかない制度です。

共働き世帯が多数となった現代において、旧来の家族形態を元に作られた年金制度では公平・公正な社会保障制度としての役割を果たせないのは自明では?

厚生年金保険制度について、こういうケースでの「掛け捨て」を防止するために、共働き世帯の遺族厚生年金の計算については、妻の老齢厚生年金とは別に遺族厚生年金が必ず一定額支払われるような方法を設けるとか、国民年金のように保険料の一部払戻し制度を導入するかすべきでしょう。

声なき声を聴く。そういう政治家や官僚が現れてほしいものです。


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