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1996年4月26日(金)《BN》

【ハイライト:福永 菜月・宮本 紳】
「あ、すごくちゃんと出来てる。ありがとう」
 受け取った女戦士を型どった木彫りを見て、福永 菜月は笑顔で言葉を発した。ここはスナック『ハイライト』。本日は金曜日でもあり、会社帰りのサラリーマンを中心に、たくさんの客が訪れている。福永と宮本 紳は19時にここで待ち合わせ、先程カウンター席に並んで座り、お酒を飲み始めているのである。宮本は罠解除士の中でも特に手先が器用であり、その器用さだけであれば13期で圧倒的実力を持つと言われている森下 翼よりも高い評価を受けている。その手先の器用さから、趣味として木彫りを作ることが多く、今回福永からの依頼を受けて女戦士の木彫りを作ったのである。
「これぐらいであればいつでも。お世話になってますから」
「え?お世話なんかしてないわよ」
 少し緊張した表情で言葉を発した宮本に、福永は笑いながら返事を返す。宮本は今でこそ普通に他人と会話が出来るようになったが、部隊を組んだ半年前は極度の人見知りで部隊のメンバーともあまり会話が出来なかった。だがそんな宮本に対して福永は頻繁に声をかけたり気をかけてくれており、そのことに非常に感謝しているのである。ただ福永からすれば、特に意識的に接していたわけではなく、ただ他のメンバーと同じようにしていただけなのだ。福永は女性であり部隊では1番の年長者でもあるので、他の隊員たちと話をすることも多く、宮本にもその流れで相手をしていただけなのである。だが折角感謝してもらっているので、このことは言わないでおこうとこの時心に決める。この後2人はいろいろと話をしながらお酒を重ねていく。
「ちょっと歌っちゃおうかな」
 ある程度飲んだ後で、福永が店員にカラオケを1曲入れるように依頼する。一緒に飲むことは何度かあったが、福永の歌を聞くのは初めてなので、宮本は少しワクワクする。だが、その歌のタイトルを見てワクワクが緊張に変わる。画面に映し出された曲名はデュエット曲である“愛が生まれた日”だったのだ。満面の笑顔でマイクを渡された宮本はため息をついた後、仕方なくマイクを受け取る。一つ幸運だったのは宮本はこの歌が結構好きで、昔から良く聞いていたことである。
「こーいびーとよー」
 初めの女性パートを福永が歌い出す。初めて聞く福永の歌声は魅力的で思わず聴き惚れる。聴き惚れながらも次に自分が歌うパートに向けて気持ちを整えていく。
「こーいびーとよー」
 普段の地声よりも低く渋い声で宮本が歌い出す。意外なことに宮本は歌が非常に上手く、福永は驚いたような表情を浮かべ、そしてその後で表情は笑顔へと変わる。この後2人はこの歌をほぼ完璧に歌い上げる。すると、お店の従業員とお店の他の客から拍手喝采が送られたのであった。

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