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1999年5月12日(水)

【罠解除士鍛錬場②:滝川 亜佳里・堀越 希巳江・市井 小雪】
「それでは本日も頑張って鍛錬を開始してください!」
 鍛錬場に響く大きな声で、滝川 亜佳里が、鍛錬の開始を宣言した。ここは罠解除士鍛錬場②。本日は2次試験の5日目である。昨日時点で罠解除士は大和田 廣と堀越 希巳江の2名が課題をクリアしており、僧侶は3名、罠解除士は2名がクリアしている状況だ。今日から試験も後半戦に入り、そろそろ本気を出さないといけない状況であるが、受験者たちを見るとまだそれほど切羽詰まった感じはしない。合格人数は5名で、現在課題クリア者が2名なので、まだ余裕があると考えているのであろう。だが、気がつくと1人また1人と課題をクリアし、気がついたら課題クリアできることなく試験が終わるというのが不合格者のパターンなので、そうならないためにももう少し鬼気迫る感じでやっても良いんじゃないかと思わなくもない。
「早くクリアしてもらってもいいですか」
「出来るならとっくやってるって」
 声をかけて来た堀越に対して少しイラついた感じで市井 小雪は返事を返す。2人は熊本大学教育学部の1年生であり、地元出身の市井と福岡出身の堀越は学部のガイダンスの時に近くの席に座ったのがきっかけで仲良くなる。市井は高校生の時から冒険者に興味があり、熊大に進学出来れば冒険者に申し込むことを親にも承諾させていた。そして無事に合格したので、20期試験に応募したのである。それに対して堀越は全く冒険者には興味がなかったが、市井からいろいろ話を聞く中で興味を持つようになり、一緒に申し込んだというわけである。もともと市井は罠解除士、堀越は魔術師希望で申し込んでおり、合格したら一緒に探索しようと話をしていた。しかし、堀越が罠解除士での1次試験合格だったので、現在一緒に罠解除士の試験を受けているのである。ただ、堀越はすでに課題をクリアしているので、市井の合格をせかしているのだ。
「今日中にクリアできなかったらランチ奢りね」
「なにその無茶振り」
 軽い感じで言葉を発しながら自分の鍛錬場所に戻っていく堀越の背後から、市井はため息まじりに声をかける。ただ、これも堀越からの激励だと思い、残りの時間集中して頑張ったが、本日中にクリアすることはできず、堀越にランチを奢るはめになってしまったのである。

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