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1999年5月6日(木)

【AXIS:富田 剛・本田 仁】
「そういえば今日から20期試験だったよな」
「富田さん見に行かなくて良いんですか?」
 会話中にふと思い出して富田 剛が発した言葉を聞いて、本田 仁が軽く返事を返した。ここはお昼過ぎのゲーム&喫茶『AXIS』ゲーセン部。本日本田は午前中はいつものように魔術師鍛錬場で鍛錬を行い、鍛錬後に『AXIS』喫茶部でランチを食し、その後、ゲーセン部にやってきたのである。するとそこにはいつものように店番をしている富田がいたので、軽く挨拶をし、いつものようにゲームを始める。しばらくゲームをしていると、富田が退屈そうにしていたのに気づいたので、このゲーム終わりで声をかけにいくことにした。するとやはり退屈していたらしく色々と話をし始めたのである。それをしばらくは何気に聞き流していたが、今日から始まった2次試験の話をし始めたので、それに軽く突っ込みを入れたのだ。
「いや、流石にもう行かんよ」
 苦笑しながら富田が答える。現在は冒険者でもなく教官でもないただのゲーセン店長の富田が、冒険者の採用試験を見にいく必要は全くない。ではなぜ本田がこのようなことを言ったのかといえば、富田がまだ血気盛んな若い頃、この冒険者2次試験の体力測定で指定のジャージを来た女性のボディラインが大好きで、全く関係ないのに体力測定を覗きに行っていたらしいのだ。さらに経緯はわからないが、しばらくは体力測定の測定員もやっていたとのことで、富田のこの性癖みたいなものは結構有名なのである。ただ、富田もすでに29歳になり奥さんと娘がいる状況だ。新規冒険者たちの体力測定を見ながら興奮するなどということは流石に言語道断だとつい最近気づいたのである。
「やれやれ俺の知っている富田さんはそんな人じゃなかった」
「そんな〜人じゃ〜なか〜ったよね〜。あの夏の日の〜や〜く〜そ〜くは〜」
 特に深い考えで行ったわけではなく、いつもの定型句を口にしただけの本田であったが、なぜか富田が急に名曲“悲しみTOOヤング”を歌い始めたので、何も言わずにその場から離れて、再度ゲームを始めるのであった。

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