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1996年5月7日(火)《BN》

【僧侶鍛錬場②:野本 侑花・吉川 美穂】
「なかなか野本さんの次が来ないわね」
「コツがわかったら意外と簡単なんですけどね」
 鍛錬場を見渡しながら言葉を漏らした吉川 美穂の隣で、指先に光を灯しながら野本 侑花が返事を返した。ここは僧侶鍛錬場②。本日は2次試験4日目である。ゴールデンウィーク明けとなるので、いまいち気合が入らない冒険者達であるが、そうは言っていられないので全員が可能な限りの集中力で課題に取り組んでいる。僧侶としては3日目に野本が課題をクリアしており、次のクリア者を目指して残り9名が悪戦苦闘中である。
「これって、次に誰が出来そうとかわかるもんなんですか?
 素朴に思った質問を野本が尋ねてみる。教官の吉川は指先に光を灯そうと集中している受験者を見回りながら、その指先も何やら確認している。正直野本には残り9名の指先を見ても何も見えないし、感じない。ただ、もしかすると教官には何かが見えていて、その見える何かによって課題の進捗がわかったり、最終的には合否の判断を行うことができるのかもしれない。
「そうね。私はあまり得意じゃないんだけど、一応指先の波動は見ることができますよ」
 こう答えて吉川は笑顔を浮かべる。得意じゃないというのが謙遜なのか事実なのかはわからないが、何かしらの状況は判断できるようである。
「誰が出来そうとか聞いてもいいですか?誰にも言わないので」
「じゃあオフレコで。今日出来るとすれば関川くんか深田さんね。でもギリギリ今日は無理かもしれない。でも明日には確実に出来ると思うわ。他はまだ厳しそうって感じかな」
 質問に対してこう答えた古川は、このあと受験者達を見て回るためにその場から離れていった。野本は課題をクリアしていて特にやることがないので、次にクリアしそうであるらしい関川 広行や深田 久仁恵を応援するふりをしながら、2人の指先を集中して眺めてみた。だが、指先から発せられているらしい波動は全く見ルことができなかったのである。ちなみに本日は関川が課題をクリアしたので、僧侶で課題をクリアしたのは2名となった。

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