1999年9月8日(水)
【冒険者組織書籍部:内田 佳奈美・大島 清吾・森下 翼】
「まあ、無理はしないようにね」
軽く笑顔を浮かべながら内田 佳奈美が言葉を漏らした。ここは冒険者組織書籍部。14時を少し回った時間であり、客はちらほらと来店している状況である。いつものように内田は朝から書籍部を運営しており、先程大島 清吾と森下 翼が店にやってきた。この2人は本日午前中は第2迷宮地下3階を探索しており、その状況を報告しに来たのである。別にその状況を内田に報告する必要は無いのだが、ここに遊びにくる理由になるので探索後は結構な頻度で書籍部にやってきているのである。最近は地下3階の亜獣を適当に狩る日々が続いており、特に危険な状況になることもないとのことだが、いろいろ話を聞くと心配してしまうのは仕方がないことだ。ちなみに現在内田と大島は恋人同士の間柄であり、そのことは特に隠されているわけでもなく、森下を含めほとんどの冒険者には周知の事実となっている。
「わかりました。心配ご無用です。何かあっても俺が清吾を連れ帰ってきますよ」
「お前に何ができるんだ」
調子良く森下が返事をした言葉の内容について大島が冷静に突っ込みを入れる。森下は罠解除士なので、何かあった時にその状況をどうにかできる能力はほとんどない。亜獣と戦うことは出来ないし、攻撃呪文も使えない。また、瞬間移動ももちろん出来ないので、何かあった時には何も出来ないというのが罠解除士の宿命である。それもあるので、何も起きないように探索中は全神経を集中して、亜獣探知や罠解除を行っているのである。
「ところで最近聞きそびれてたんだけど、翼くんは彼女とはどうなったの?」
思い出したように内田が質問を投げかけてみる。すると森下は少し困ったような表情を浮かべて口を開く。
「えっと、彼女とはどの彼女のことでしょうか」
これを聞いて内田は大きくため息をつく。森下はルックスがイケメンで性格も明るいので非常に女性にもてるのである。だがあまり長続きはしないらしく、付き合っては別れるを繰り返しているようだ。
「今は妹と付き合ってるんだよな」
以前の彼女の件から話題を変え、現在の彼女について大島が口を開く。それを聞いて内田は疑問の表情を浮かべる。
「妹?って誰の」
「あ、同じ部隊の宮崎姉妹の妹です」
確かに妹では誰かわからないなと感じつつ森下は説明を返す。現在森下は同じ部隊の宮崎 藍と付き合っているのだ。
「そうなんだ。藍ちゃんとね」
思わず内田は笑顔を浮かべる。元々内田の職業は宮崎と同じ僧侶であり、一緒に鍛錬を行った仲なのである。良く知っている2人が付き合っていることに、少し嬉しい感情が湧いているのであった。