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2024年4月26日(金)《GB》

《味噌汁はおふくろの味、アップルパイはマザーの味、卵焼きは母親の味、ミルキーはママの味》
【黒瀬邸:黒瀬 舞人】
「あれ、母さんからだ」
 宅配便の荷物を受け取って黒瀬 舞人は思わず言葉を漏らした。ここは黒瀬邸。本日大学から自宅へ帰ると佐川急便の不在配達票が入っていたので、記載されている番号に連絡し、再配達してもらったのである。荷物は母親の島田 笠音からであり、中身が何であるかの予想は全くつかない。一昨日冒険者の1次試験結果発表の時に、合格の電話を入れて少し話をしたが、その時には特に何かを送るという話はなかった。だがこのタイミングなのでおそらく合格祝いで何か送ってくれたのであろう。荷物を開けて中身を確認すると、まずは1番上に手紙が置いてあった。その手紙には1次試験合格に対する祝福と、大事なのはこれからであり、最終的には必ず冒険者になって欲しいとの内容が綴られていた。あまりにも想像通りの手紙の内容に思わず黒瀬は笑ってしまう。そして手紙の下にはまず母親が得意とするサンドウィッチが大量に入っている。小さい頃から食べ続けているので、そろそろ食べたくなる頃だろうとたくさん作ってくれたようだ。また、その下には母親お手製の焼き菓子が入っており、これは黒瀬にとっては特別な焼き菓子である。一般的な日本人にとってお味噌汁がおふくろの味であり、アメリカ人であればアップルパイがママの味らしいが、黒瀬にとってはこの焼き菓子が母親の味なのである。この焼き菓子には母親の大好物である黒すぐりジャムが使用されており、この味が黒瀬にはおふくろの味として刻み込まれているのである。黒すぐりジャムは自宅にいつも存在していたので、世間的にはあまりメジャーなものではないということに、黒瀬は物心が付いてから気づく。その時に母親に黒すぐりジャムに付いて質問し、答えてくれたことについて懐かしく思い出す。自分が小さい頃に母親は百貨店のサービスカウンターで働いており、その給料日に自分へのご褒美として黒すぐりジャムを購入していたというのだ。自分のためにはほとんどお金は使わず、すべて黒瀬の成長のためだけに使っていたような母親だが、このジャムだけは毎月購入していたようである。ただ、このジャムを使って焼き菓子を作ってくれていたので、自分のためだけに購入していたわけではない。箱の中身はこれだけだと思っていると、1番下にもう一つ入っている物があった。それは自宅でいつも流れていたクラシック音楽、ショパンのCDである。これを見て黒瀬はまたも思わず笑ってしまう。きょうびCDプレイヤーで音楽を聴くことは少なくなっており、黒瀬ももちろんCDプレイヤーは持っていないのである。だが、黒瀬は実際聞くことができないにしても、このCDを同封してくれた母親の気持ちを察して、本棚の1番目立つ場所へと大事に収納したのである。

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