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1996年6月27日(木)《BN》

【道:中島 一州・富田 剛】
「今日はどうしたのトミー、何か話があるって」
「いや、一州さんに折り入ってお聞かせしたい話がございます」
 今日は2人で飲みに来たので、カウンターに隣り合わせで座っている中島 一州が聞いてきた質問に、富田 剛は神妙な面持ちで返事を返した。ここは居酒屋『道』。本日は平日なので、店内はある程度落ち着いた雰囲気である。お昼過ぎぐらいに富田から本日の夜『道』で話したいことがあると連絡を受けた中島は、その申し出を了承し、現在『道』のカウンターに並んで座っている。さしよりビールと簡単なつまみがやって来るのを待って乾杯し、先程の話となったのである。
「実はですね」
 珍しく真剣な表情を浮かべて富田が話を始める。その内容は以前も話になったこの『道』の目の前に建設予定のゲームセンターの進捗についてであり、このことについては特に緊張して話すような内容ではなかった。この後、富田は大きく息を吸って大事な話について口にする。
「明日さやかにプロポーズする予定です」
 それを聞いて中島は少しだけ驚いた表情を浮かべる。実は冒険者を引退した富田が松浦 さやかと結婚するつもりであることはある程度予想は出来ていた。後はタイミングがいつになるのかだけだと思っており、本日2人で話しがあると相談されたので、結婚に関する話しがあるのではないかと推測は出来ていたのである。ではなぜ少しだけ驚いたのかといえば、プロポーズをする日が明日だという部分についてである。
「そうか。トミー頑張ってね」
 優しい表情で中島が返事を返し、そして次に話されるであろう話題について想像する。プロポーズをするということは結婚するということであり、そうなると松浦は冒険者を引退することになるであろう。もちろんプロポーズを受けてくれればの話ではあるが。
「さやかは一州さんの部隊なので、それも含めて相談しておかないといけないと思ったです」
 結婚、引退まで考えると中島の部隊から魔術師がいなくなってしまうということであり、そうなると部隊の再編成が必要となるので、あらかじめ相談をしたということなのだ。
「わかった。俺も今てへトリオと掛け持ちしているからそれもどうにかしないといけないと思ってたんだよね。さやかちゃんが抜けるんだったらどうしたいかを残り4人と相談してみるよ」
 こう話しをした中島は今後の自分の身の振り方についても真剣に考えないといけなくなったことを認識する。そのことは結構面倒ではあるが、本日は富田が意を決して自分に大事な話をしてくれたので、一旦面倒なことは忘れて、この後は楽しく盃を酌み交わすことにしたのである。

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