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1996年5月17日(金)《BN》

【新迷宮:足立 誠一・島田 笠音】
「いよいよだ。これで私たちの当初の計画は完遂する」
「・・・・・・・」
 満足そうな表情を浮かべる足立 誠一を何も言わずに島田 笠音が見つめている。ここは新迷宮地下5階。今週の月曜日に黒髪てへトリオ部隊が10の部屋の番人である広巡 聡を倒したので、残るはラスボスと真のラスボスを倒すだけとなっている。
「私の予知によれば、最終的には黒髪てへトリオ部隊が勝利する。そして当初の計画も実現できるはずだ」
「あなたはどうなるの」
 自分の能力である予知で感じることができた未来を足立は口にし、それを聞いて島田は静かに質問する。先程聞いた予知の内容では、島田が目的を達した後、黒髪てへトリオ部隊と一緒に地上に戻るという話であった。だがそこに足立の名前がないのである。
「私はそもそも出来損ないだから、地上には出れないよ」
「じゃあ、あなたがやればいいじゃない」
 悟ったような表情で発した足立の言葉を聞いて、少し強い口調で島田が言い返す。
「私じゃダメなんだ。笠音、君が私たちの夢を叶えるんだ」
 島田を見つめながら優しい表情を浮かべて足立が声をかける。こう言われてしまうと島田も次の言葉が出てこない。
「いつか一緒に地上に出ましょう」
「そうなる未来があるといいけどな」
 今言える最大限の願望を島田が伝え、それを聞いて軽いため息をついた足立が返事を返す。おそらくそうはならないということをすでに予知しているようである。

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