見出し画像

#8 アナフィラキシーショック

卵巣腫瘍はステージ2Bで、両方の卵巣と子宮、リンパ節、大網を摘出した。
腫瘍は大腸に癒着していたが、大腸を切らずに剥がせたとのことだった。
目に見えていた腫瘍は取り切れたとのこと。

体中に管が繋がれて身うごきが取れない。
しかしその管も一本ずつ抜けて、身軽になっていく。

お腹の傷の痛みはやはり相当なものだ。
腹を掻っ捌いているのだから当たり前だ。
傷の痛みを庇って、前屈みになりよちよちと歩幅を狭めて歩くので、おじいちゃんおばあちゃんのようだ。

術後12日で退院した。

落ち着いたら化学療法になる。
髪の毛が抜けると聞いていたから、ウィッグを作ることにした。

今まで白髪と薄毛をカバーするためという消極的な理由からショートカットにしていたが、これを機会にボブのウィッグもいいな。
本当はロングに憧れている。
母方の実家が床屋だったから、髪を伸ばす前に勝手に切られてしまっていて、サラサラロングヘアのお友達がとても羨ましかった。

小さい頃に短くしていたから、伸ばす根気もなくなっていた。

ロングヘアは持て余すかもしれないからボブにしよう。

私の住まいから1時間ほどのところに、ウィッグの販売店がある。
まだまだ傷が痛くて長距離の運転は難しいから、友人に運転をお願いして買い求めた。
こんな時、友人はとてもありがたい。率直に似合う似合わないをアドバイスしてくれる。
それなりのものが買えた。

帰宅して早速子供達の前で被ってみる。
小4娘は爆笑しながら、「私が幼稚園の時のお母さん、こうだったよねー」とはしゃぎながら、自分にも被せてみたりしていた。
小6息子は、とても複雑な顔をして私を一瞥し、「いつものお母さんがいいなあ。ぼく、その髪型やだなあ」と曇り顔。

そりゃ私もそうですよ。
違和感あるよね。突然見た目が大きく変わるからね。

私自身慣れない…。なんか似合わない?
服がいけないんだわ。
今までショートカットに合わせて、メンズライクなテイストできてたけど、ボブだからもっとスカートも取り入れてフェミニンにした方がしっくりくるのかもしれない。

私は洋服が好きで、結構ZOZOTOWNでポチポチしちゃうタイプだから、早速スカートを何点かポチポチしてしまった。

こうして準備万端で、化学療法に臨むことになった。特になんの予備知識もなく、ネットで調べることもなく主治医に全信頼をおいていた。

治療は日帰りで、化学療法センターの空きベッドで行う。
パクリタキセルとカルボプラチンの二つを投与する。TC療法というやつだ。

初めにアレルギー用と、吐き気止めの点滴を投与し、いよいよ抗がん剤投与となった。
先生と看護師が「開始から5分までは我々がついているので、何かあったら言ってくださいね」と声をかけてくれた。
私はこの何気ないひと言が、とても重要な意味を持つことがわかっていなかった。

投与開始。
そばに看護師が待機している。

「5分経ちました。大丈夫ですか?」

「大丈夫です…」
そう言いかけて、突然、胸から苦しみが湧き上がり、息がしづらい感覚が襲ってきた。
「わたし、なんか変です!!…苦し!」
みるみるうちに、みぞおちから喉元まで一気に苦しくなり、左右に体を揺らす。

医療スタッフが雪崩のように私の下に押しかけ、血圧を測り、酸素マスクをつける。
「コードブルー!!!!」と誰かが叫んだ。

数秒後には病院内に「コードブルー」の放送が流され、ああ、私、コードブルーなんだわと頭の中で理解していると、スタッフが緊急連絡先になってる弟に連絡したと伝えてくれた。
そんな大事なんだな今…。

腰も一気に痛くなって、何故だか便意がきた。
「あの!なんか便意が…、」
弱々しい声で言っても伝わらないと思い、
「う◯こがしたいんです!」

看護師さんが、私のズボンを素早く脱がせ、簡易便器をおしりに当てがう。
「ここでしよう!!」
「人としてできません〜!こんなところで」
なんせスタッフに囲まれてるし、急変から私の処置スペースに衝立が立てられたとは言え、ほかの患者さんもいる。
「大丈夫だから、ここでして」
「人としてできない〜むり〜」

そうこうしているうちに、医療スタッフが口々に「アナフィラキシーだ」「アナフィラキシーだ」と呟きだした。
熊みたいな大きな先生が「アドレナリンを打ちます」と言って、まるで必殺仕事人のように、素早く私の右腕に注射を落とし込んだ。

それから化学療法センターから救急病棟に運ばれ、アドレナリンを打ったせいなのか、今度は心臓の鼓動がバクバクするし、なんとなく苦しみは続くしで、どうなることかと思った。

いつのまにか便意は引いていた。
緊急連絡をもらった弟が駆けつけた時には、事態は落ち着いていた…。

アナフィラキシーショックってこうなるんだ!!

初めての経験。

驚きすぎて、何がなんだかわからない。
今後の治療、どうなってしまうんだろう?

何も調べてなかった私はようやくスマホを手に、パクリタキセルについて調べ始まったのだった。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?