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闘病記②グジャグジャの気持ち

病院をあとにしたと言っても、駐車場の中で私は動けないでいた。
もちろん涙は止まらない。

…卵巣にある白いモコモコー。

…腫瘍マーカーの値が高いー。

こんなのどう考えても癌に違いない。

運転席に座り、エンジンがかかっているものの、ハンドルを握る気持ちには到底なれない。
しかし、この日は診察を終え次第、出勤することになっていた。
こんな気持ちのまま、仕事なんてできそうにないのに。

職場にはまだ何も言ってない。
どのみち職場に伝えなければいけない。
タイミングとしては早すぎる気もする。
それよりも何よりも、今ここにある感情をどこかに誰かにぶつけないことには…、この失望の塊を一旦外に吐き出さないことには、気持ちの整理がつけられそうにない。

弟にLINEを送る。
「腫瘍マーカーの数値が3桁あるって。
総合病院に紹介状書くって言われて涙止まらない。」

「仕事行きたくねー。
もう気力とか湧かなくなった。
ここまで気を張ってきたのに。」

「周りにもっと不幸な人いっぱいいるけど、何事もなく暮らしてる人もいると思うと、なんかもー疲れた。」

弟から返事が来る。
「もっと大変な人も沢山いる。
今生きてるだけで丸儲けだ。」

ごもっともだ。
ごもっともだけど、入ってこない。
弟に呟くことで少しだけ、自分の負の感情を吐き出せた。
もう少し、自分の気持ちを動かして、この駐車場を去らなければならない。

仕事に行かなければいけないとか、行きたくないとか、なんで自分がとか。
色んな気持ちがグジャグジャグジャ。

それでもこれをどうにかしたい。
その行き場を職場の人間に求めるのもどうかとも思ったが、思い切って電話してみた。

「課長〜。すみません。
ショッキングなことがありまして〜。」
多分、そんな言い出しだったと思う。
これまでの経過を話した。
「ショックすぎて受け止めきれません。今日って、何か私、予定入ってましたっけ?仕事になりそうにないです。気持ちを整理しないと。」

「うーん。今日は夕暮係長は、午後からA社と打ち合わせ入ってるね。俺、別件でいなくなるから、代わりの人間いないんだよな…。」

そうだ。A社の案件、スッカリ忘れてた。
これは休めないんだわ。
「わかりました。午後から出勤します。」

課長から、身体のことは了解したこと、課長の身内にも同じ状況の方がいることなどを話され、慰めていただき電話を切った。

仕方ない、仕事に行こう。

やっぱりちょっとでもコトを動かすと、なんとか前に進むものだ。
この際だから、出勤前に実家に行って母親に話をしてこよう。

ようやく病院を出て、実家に向かうことができた。
涙はとめどなく溢れ続けていた。

母は、なんの連絡もなく突然訪れた私に驚きながらも只事でなさを感じ取り、お茶を淹れてくれた。
私は泣きながら事の経過を話すのだった。

母もやはり、涙を流し、受け止めきれない様子だった。
この時のことは細かくは思い出せないけど、なんとか気持ちを切り替えて、午後は仕事に行き、A社との打ち合わせを難なく終えたのだった。




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