見出し画像

ゴウが伝えたかったことを考える―JN62話「じめじめジメレオン」より

〇はじめに

先日、公式によるTweetで公式チャンネルの「アニポケセレクション」にJNの話が追加されることが告知されました。

サトシ編が幕を閉じ、現役世代だったJNもアニポケの歴史に織り込まれていくのは感慨深いことです。さて、それではJNからどんな話がセレクションされるのでしょうか?

私は個人的にJN62話「じめじめジメレオン」が選出されると予想しています。なぜならこの話はJNの核となるゴウを描くにあたって重要なメッセージが込められているからです。

本稿では(きっと)セレクションに選定される(だろう)「じめじめジメレオン」からゴウのメッセージを汲み取り、それがどのように解釈されるかについて語っていきます。

〇「じめじめジメレオン」の概要

まずはいきなりメッセージについて考える前に話の概要を整理しておきましょう。Pointを三つに絞ってまとめます。

Point1:メッソン→ジメレオンの憂鬱

まず前提としてこの話はゴウではなく、あくまでメッソン→ジメレオンに焦点化したストーリーであることを抑えなくてはなりません。

メッソンはJN54話に登場したジャクリーンのインテレオンに憧れを抱いていました。その為に日々自分を鍛え、いよいよ進化のときを迎えます…、が皆さんご存じの通りメッソンはインテレオンに進化するためにもう一つ進化を挟む必要があります。それが「ジメレオン」なのです。

しかし、メッソン→ジメレオンは想像していた進化像と実際の自分の姿のギャップにショックを受けてしまいます。その後ジメレオンは暗くてジメジメしたほら穴に巣籠もりします。それがショック故なのかジメレオンの種としての性質なのかはわかりません。

Point2:ジメレオンとのすれ違い

ゴウはメッソンからジメレオンに進化して巣篭もりを始める様子を確認しておらず、急に自分のことを無視するジメレオンに対してどう対応していいかわからず戸惑ってしまいます。結果としてエースバーンによって穴から引きずり出されますが、ジメレオンは悲しそうな顔をしてパークの外に逃げ出してしまいます。

研究所に戻ったゴウはサクラギ博士からジメレオンの生態のことを聞いた上で再度捜索を続けます。その間ゴウはなんでジメレオンが自分のことを無視するのかを考えていましたが、ふと自分も過去似たような経験をしたことを想い出します。

Point3:ゴウからのメッセージ

星の見える建物の屋上でゴウはジメレオンを見つけます。ゴウはジメレオンを穴から引きずり出したことを謝って、自分もかつてジメレオンと似たような境遇にあったことを告白します。

みんなと遊ぶのが嫌になって一人でいたときに先生から「なんでなの?」と問い詰められてイヤだったこと。そして今のジメレオンも自分と同じ気持ちだったのではないかと。

「ジメレオンはジメレオンのままでいい」から「いつか誰かと一緒にって思った時は自分を誘ってくれたら嬉しい」と告げられたジメレオンはまた姿を消したのでした(後に詳しく検討するためあえて簡略化しています)。

ジメレオンはパークに戻り、巣篭もりを再開しました。ゴウもそれを確認しお互いの新しい生活が始まります。

最後に次のナレーションが流れて幕を閉じます。

「近づきすぎず、かといって離れもしない。そんなトレーナーとポケモンの関係があってもいいのかもしれないね」

JN62話「じめじめジメレオン」

〇ゴウがジメレオンに伝えたかったこと 

以上が「じめじめジメレオン」の概要です。話の軸となるのはやはり最後のゴウからジメレオンへ贈ったメッセージでしょう。改めてゴウがジメレオンに語り掛けた内容を書き起こしてみます。

ゴウ:昔、みんなと遊ぶのが嫌になってずっと一人でいて、そしたら先生が

<先生:ゴウくん、どうしてみんなと遊ばないの?黙ってたら分からないでしょ。教えてなんでなの?>

ゴウ:なんでなのか自分でもわかんないのに”なんで、なんで”ってしつこく聞かれて、なんか俺悔しくて。家に帰っても父さんたち仕事でいないことが多かったし、ばあちゃんには相談しにくいし。しょうがないから星眺めて過ごしてた。

で…もしかしたらジメレオンも俺と同じ気持ちかもってここに来てみたらお前がいてくれてスッゲえうれしかった。俺と同じだったんだって。俺思い直したんだ。わかんないもんはわかんないままでいい。すぐに答えなんか出さなくてもいいって。だから…ジメレオンはジメレオンのままでいい。俺のことなんか気にせず、好きなだけ巣籠もりして。で、いつか誰かと一緒にって思ったときは俺を…誘ってくれたらうれしい。

俺、離れていてもそばにいるから。

JN62話「じめじめジメレオン」

ゴウのメッセージを要約すると以下のようになるでしょうか。

  • 自分もジメレオンと似た境遇にあったことがある

  • それなのにジメレオンの気持ちを考えることなく、今の自分の都合でジメレオンのことを捉えてしまった

  • 無理にわかろうとして「なんで」と問いただすのは相手を追い詰めることになる

  • わかんないもんはわかんないままでいいから、今の相手をそのまま肯定することが大事

  • 離れていても相手のことを思いやることはできる

ジメレオンがゴウのメッセージをどこまで理解できたのかはわかりませんが、ジメレオンはこれらのメッセージを受け取りパークへと戻っていきます。

〇視聴者はゴウの言葉をどう解釈するか

さて、以上はゴウからジメレオンへのメッセージでしたが、作品として世に出ている以上そのメッセージは第三者である視聴者によって解釈されます。そしてそれはジメレオンが受け取ったものとは異なる意味を持ちます。

JNは賛否両論が分かれるシリーズだと一般に言われていますが、それはゴウのメッセージについての解釈が分かれるのが原因の一つと考えられます。

ただし、意見が分かれるのは創作としてむしろ歓迎すべきことでそれだけ議論を呼ぶテーマを扱っているともいえます。現在私はゴウのメッセージについて肯定的に捉えていますが、ここではあえて肯定派・否定派双方が考えられる解釈を両論併記してみます。そうすることでメッセージが持つ意味をより多角的に議論する叩き台になると考えるからです。

肯定的解釈(の例)

  • ジメレオンとすれ違ってしまったゴウがサクラギ所長の言葉と自らの過去を内省することで「思い直す」ことに成功した

  • 「分からない」ものを「分からない」ものとして受け入れるのは他者≒自然の存在を肯定する態度であり、これまでアニポケで描いてきた「共存」のテーマとも合致する

  • これまでのサトシがポケモンに対して行ってきたような体当たりではない新しい方法を提案したことで、これまで届かなかった(共感しにくかった)層にもアプローチできるようになった

否定的解釈(の例)

  • 「先生」が「なんでなの?」と聞いたこと自体は否定できる行為ではない。職種としても一人の大人が子どもに対して向き合うにしても、孤立している理由を突き止めるのは当たり前である

  • ゴウとジメレオンの関係がかつての「先生」とゴウの関係になぞらえるのであれば、「先生」の心情を理解できる機会であったにも関わらずそれを切り捨てている

  • また、ゴウがジメレオンとかつての自分を同一視したのも大局的に見れば「わからない」はずのものを「わかる」としてしまっている行為ではないか?

もっと詳細に掘り下げることもできますがここでは概要に留めます。メッセージを考えるときに重要なのはどの立場で考えるかです。ざっくりと言えば「子ども」側に立つか「大人」側に立つかで解釈のポジションは変わります。

「大人」側に立ってみたとき、ゴウのメッセージを素直に受け止めるのは難しいでしょう。色んな事情があって、先生もゴウのことを放っておけなかったんだと想像するのは自然なことです。ゴウが大人になる機会を一つ逃したと考える人もいるかもしれません。

しかし、「子ども」側に寄り添ったものと考えると見え方が変わります。このメッセージは子どもが大人に「なんで?」と聞かれるときに迫る圧迫感、尊厳を踏みにじられている感じ…そういう感触を大事にしています。

ただし、注意しなければならないのは「ゴウ-ジメレオン」の関係は「かつてのゴウ-先生」と同一ではないということです。にもかかわらずゴウはジメレオンとかつての自分を重ね合わせています。この部分は歪みとして存在しており、これをリアルと捉えるか物語上の不備だと捉えるかも解釈が分かれるところでしょう。

〇おわりに

私は度々JNのコンセプトはゴウが軸になっていると主張してきました。

個人主義・自己実現・未来志向…ざっくり言えばこれらがコンセプトとして考えられますが、本稿で新たに視点を加えるとすれば「当事者としての『子ども』」ということになります。

ゴウはアニメオリジナルの主人公ということで、原作キャラ以上に表現したいメッセージが込められていると考えられます。ゴウのメッセージについて考えるのはこれから始まる新シリーズの物語を解釈する上でも意味があるものではないでしょうか?

特に新主人公のリコは周囲から何を考えているか「わからない」少女として造形されているようです。そしてリコは何を考えているのかわからないニャオハと出会い物語が展開されていきます。

「わからない」ことに対してどう向き合うか…、というのが新アニポケの命題だとしたらその源流はゴウにあったと言われる時がくるかもしれません。

正直なところ、ゴウは万人受けするキャラクターではなく彼が伝えたかったメッセージも正しい形で広まりきらないままシリーズが終わってしまった気がします(繰り返しますが賛否が分かれること自体が問題なのではありません)。

本稿によって少しでもゴウのメッセージが広く伝わり、各々が自分で解釈するきっかけになることを願います。ご清聴ありがとうございました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?