衝撃の告白
ズギュュュュン!!!ビシ!バシ!ビシ!バシ!
ギュワワワーン!ドカァァァァン!
雲一つない晴れ渡る空。
春の訪れを感じさせる今日この頃。
南海なんば周辺に居た人たちはみんな同じ空を見ていた。
ピューン!ピューン!!キャン!!!
ズパァン!ズパァン!ズパァン!!!
空中戦だ。ドラゴンボールとかでよく見るあれ。
というかそのもの。
豆粒ほどの人影が上空で激しくぶつかり合い、その度に目に見えるほどの衝撃波が街中に響く。
「空中戦って、こんなにも見ることしか出来ない
んだ」
前日に散髪をし、春らしいコーディネートに身を包んで、少しばかりの全能感を持ち合わせていた僕もこれにはしょんぼり。
Xで『難波 空中戦』と検索してみれば
「難波来たんだけど空中戦やってる」だとか
「空中戦見る時ってみんな同じ顔になるんだ」
だとか思い思いのことがポストされていた
トレンドにも『空中戦』『ドラゴンボール』
『金龍ラーメン』など上がっており、試しに金龍ラーメンをタップしてみると「金龍ラーメンのロゴの龍が実はドラゴンボールの神龍なのではないか?」などという『部外者の極み』みたいな考察が成されていてXをやめようと思う理由がまた1つ増えただけだった。
「おまたせ〜」
聞き馴染みのある声が聞こえて、僕は待ち合わせ中だったことを思い出す。
彼女もまた春らしくなっており、モカベースのプリーツパン ズギャァァァァン!!!!!ギャリギャリギャリ!!!
ピュンピュン!!!だった。
「ごめん、待った?」
僕は耳を疑った。こんな状況での第一声が
「ごめん、待った?」なのは常軌を逸している。
プログラミングとさえ思える。使い方は違うかもしれないが女は上書き保存とは良く言ったものだ。
「イヤイヤ、イマツイタトコダヨ」
考えることを辞めていた僕もプログラミングのような言葉を発して、僕たちは街中へ歩き出した。
丁度いい気温、理想のデートプラン、春色の君、春色の僕、空中戦。
最悪だ。何もかもが最高なのに空中戦が全てをぶち壊す。こんなにも地上戦だったら良かったのにと思ったことは人生で1度も無い。
地上戦はその場から立ち去れば回避することができる。空中戦はなんかずっと居る。音も凄いし。
1番嫌なのは、僕も彼女もその事には触れないでいるという事だ。2人の時間を大切にしようとする余り、とんでもなく大きなことから目を逸らし続けるのは精神的にキツい。
僕ら以外はまだ空を見ている。
「おい!何か溜め始めたぞ!!!」という声には
一瞬釣られそうになったが、今ここで釣られてしまったら僕は空中戦から目を離せないだろう。
「何か言いたい事あるんじゃ無いの?」
急に彼女が言った。
え?触れていいの?触れた方が彼女としてもありがたいの?
「本当に…こんな恥ずかしい事女の子に言わせないでよね」
彼女はずっと待っていた。僕から言い出すのを。
こっちを見ず、ただ前を見て待ち望んでいる彼女の横顔を僕は愛しいと思った。
「毎朝、僕の味噌汁を作って欲しいです…」
「・・・え?・・味噌汁?・・・いや空中
戦・・・」
「…ん?…あっ空中戦…」
愛しさが勝ち過ぎた。
「え?何今の?…もしかしてプロポーズ?」
「…はい」
「何それ、本当おかしいんだけど(笑)
空中戦やってる時にプロポーズしてくる人
居る?(笑)しかも、味噌汁って…(笑)
いつの時代(笑)」
お腹を抑えて彼女は笑うことを止められなかった。
「一生に一度のプロポーズなのに(笑)
こちらこそ、作らせてください(笑)」
キュインキュインキュイン!!!ピシャー!!!!!!!!
ドキドキズギュュュュン!!!!!!!
衝撃波が一瞬ハートの形に見えた。
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