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見たもの、見えなかったもの

見間違いだったのかもしれない。
昼休み、職場の給湯室で、全力で顔を洗う女を見た。
歯磨き、うがいはよく見る。男性ならば顔も洗うだろうが、女性である。化粧をしていないのだろうか。
こちらが近づくと恥ずかしそうに笑って顔を背けた。
職場の先輩に話すと、「本気の化粧直しだったのではないか。」
なるほど…と思いながら、あのとき一瞬見えた赤らんだ顔を思い出す。ひどい皮膚炎のような赤さ。化粧はできないのかもしれない。
なんだか見てはいけないような気がした。

子の送迎で車を走らせていると、田舎のバス停にたたずむ人影が見えたような気がした。生気なくたたずむ、まるで、マネキンのような。マスクと帽子で顔は見えなかった。どことなく禍々しく、見てはならないような気がした。

異様に大きく黄色い月がいつの間にかはるか上空にあって、普段どおりの月となっていた。ああ、見逃した。もっと見たかったのに。

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