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今日もaudible 第23回: The Pawnbroker's Wife

audible uk の会員ですが、リンクは日本版のaudibleにしました。
audible uk については下記をご参照ください。

今日もaudible: ところで audible uk って何?


訳あって、Muriel Spark の The Complete Short Stories を再聴中。

心に「ザラッ」とくる話ばかり。

そう、それがミュリエル。

さわやかな読後感は期待しないでくださいね。


この中から何篇かを聴き直しているのですが、ちょうど以前から気になっていた表記が出てきたので、ここに書きます。

それは The Pawn Broker's Wife の中に出てきました。

図書館に1980年代半ばに出版された The Stories of Muriel Spark があったので、引用はそちらからにします。

Mrs. Jan Cloote


イギリス表記では通常 Mrs のように . はつきませんが、引用した本ではついているので、そのままにしておきます。

Mrs. Jan Cloote は The Pawn Broker's Wife の主要な登場人物です。

She was a small woman of about forty-three, a native of Somerset. Her husband, Jan Cloote, had long ago disappeared into the Transvaal, where he was living, it was understood, with a native woman.

Muriel Spark(1987), The Bodley Head, The Stories of Muriel Spark, p.104

Jan Cloote がご主人の名前です。

Jan は夫人のファーストネームではなく、ご主人のものです。夫人のファーストネームは出てきません。

ずいぶん前にこういう言い方が気になったものの、調べていなかったので、念のため Mrs. を辞書で引いてみました。

ジーニアス英和辞典の定義


ジーニアス英和辞典第5版
[結婚している女性の姓・姓名の前で]・・・夫人、さん
例 Mrs. (John) Smith (ジョン)スミス夫人

上記では「語法」の3つ目の説明に「伝統的に夫の姓名にMrs.をつけてMrs. John Smith のように言っていたが、これは現在では非常に古風とみなされ、妻の姓名につけてMrs. Mary Smith というのがふつう.」とありました。

現代英米語用法辞典の定義


現代英米語用法辞典(研究社)でも似たような説明です。
「厳密には自分の夫の洗礼名と共にMrs. Anthony Adamsのように用いるべきであるが、現在ではほとんど守られず、女性の洗礼名と共に用いている:Mrs. Ethel Adams.


Oxford English Dictionary の定義


Oxford English Dictionary (OED) ウェブ版では、Mrs は下記のように定義されています。

1.a.
1485–
A title of courtesy prefixed to the surname of a married woman having no higher or professional title, often with her first name, or that of her husband, interposed (also formerly prefixed to the first name of her husband with omission of the surname).
Though used to distinguish gentlewomen in former times the title is now applied without discrimination. In British use, the insertion of a woman's first name after Mrs (as ‘Mrs Mary Smith’) used to occur chiefly in legal documents, cheques, etc., and was otherwise rare, the normal practice being to insert the husband's name (as ‘Mrs John Smith’) when distinction was needed. Both styles are now commonly used. In England Mrs is sometimes used before a title of office; lady High Court Judges, for example, are styled ‘Mrs Justice ——’

Oxford English Dictionary ウェブ版

(also formerly prefixed to the first name of her husband with omission of the surname)の部分がおもしろいです。姓を省いて夫のファーストネームの前につけることもあったとあります。

これにならうと、今回の登場人物なら Mrs. Jan ですね。

さらにイギリスの使用法(in British)として、Mrs と姓の間に女性のファーストネームを入れるのは法的文書や小切手などで、それ以外でそのように使われるのはまれであるとあります。


Oxford English Dictionary の Miss の定義


「やっぱりOEDはおもしろいなぁ」と思い、ついでに Miss も調べました。期待を裏切りませんでした。

2. In form Miss, as a title.
2.a.
Preceding the name of an unmarried woman or girl without a higher or honorific professional title.
In 19th cent. use, when Miss was prefixed to the surname alone, e.g. Miss Smith, it normally indicated the eldest (unmarried) daughter of the family; in referring to the others the forename was employed, e.g. Miss Ethel (Smith). In practice, for reasons of convenience the forenames were often inserted or omitted without regard to this rule, which, although it is still recommended by the style manuals, is now little used. When the title is applied to several persons of the same name at once, usage sanctions two forms, viz. the Misses Smith and the Miss Smiths, the former being regarded as the more formal.
1667–

Oxford English Dictionary ウェブ版


19世紀の用法として、Miss が姓のみについている場合、たとえば Miss Smith なら、通常は家族の(未婚の)長女であることを示す。家族のほかの娘たちはファーストネームをつけて呼ばれる。たとえば Miss Ethel (Smith)。

forename という使い方を始めて見ました。Longman Dictionary of English ウェブ版によると、イギリス英語でファーストネームのことで、formal とついていました。


OED での Miss の一番目の定義


余談ですが、OED で Miss を検索したら、上記は2番目の定義で、1番目の定義は下記の通りでした。小文字で始まる miss です。

1.a.
A kept woman, a mistress; a concubine. Also (occasionally): a prostitute. Also in extended use.
1606–1889

Oxford English Dictionary ウェブ版

concubine という言葉を、映画「さらばわが愛 覇王別姫」の英語タイトル FAREWELL TO MY CONCUBINE で覚えたのですが、それ以来めったに見ることはありませんでした。ここで出てくるとは。

(と書いて記事を公開した数十分後、同じ短編集の The Portbello Road を聴いていたら、concubine が出てきました。)


さいごに


引用した The Stories of Muriel Spark の出版年を1987年としましたが、1987年はイギリスで出版された年で、その前に1985年にニューヨークで出版されたようです。

Muriel Spark は1918年生まれです。

The Pawn Broker's Wife が書かれたのが何年なのかはわかりません。

時代設定は1942年です。

そこで私の疑問です。

1.著者の世代にとっては夫の姓名の前に Mrs をつけるのが常識だったのか。

2.Mrs と姓の間に妻のファーストネームを入れるのが普通になっていたにもかかわらず、この話の中では意図的に夫の姓名の前に Mrs をつけてファーストネームを出さなかったのか。

3.時代設定の1942年ごろは、夫の姓名の前に Mrs をつけるのが標準だったであろうという判断からか。

どれなのでしょう。この短編は2番目の可能性もありえる内容ではあります。

ちょっとメモしておくつもりが、こんなに書いてしまいました。

ではまた。



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