まじめな奴が国を滅ぼす -間違いだらけの経済常識- [1] 消費税5つのウソ(第1回)
国や世の中のことを良くしようと考えている人のほとんどが、日本を滅ぼすことに加担している。なぜなら彼ら・彼女らの経済に対する考え方が、致命的に間違っているからだ。そんな悲劇的な状況を少しでも変えるべく、この連載を始めたい。まずは「社会保障の財源」として国民が納めている消費税が、いかに我が国をダメにしているか、いかにウソだらけの税金か、からスタートしよう。
1. はじめに
-日本だけが消費税を下げない
コロナ禍で多くの国民・事業者が苦境に陥った時、世界で100近くの国や地域が消費税(日本以外では、付加価値税と呼ぶ)を下げた。しかし、日本だけはかたくなに下げようとしなかった。
消費税を下げなかったどころか、史上最高の税収額の中で(コロナ禍にもかかわらず、2020年から22年まで3年連続で過去最高を更新している!)消費税増税への動きを推進していたのだ。2023年10月から始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)は消費税収入を増やすし、財界・大企業で構成する日本租税研究協会は2021年9月に、「さらなる消費税率の引き上げ必要」との提言をしている。
-消費税減税は有効な政策だ
今年2月に日経平均株価がバブル期以来の市場最高値を更新したが、景気が良くなったと実感している国民はほとんどいないだろう。それどころか、実質賃金は下がり続け、税・社会保障負担は上がり続けており、国民の生活は苦しい。
賃金が上がったとしても、それ以上に物価が上がれば、実質の賃金は下がっていることになる。
実質賃金は、1997年の481万円から2023年の396万円まで下がった。
こんな国は、先進国では日本しかない。1997年を100とすると、2021年の日本の実質賃金は90だが、日本以外で一番伸びの低いイタリアでも113、最も高いイギリスは135である。普通賃金は上がるものなのだ。
これに追い打ちをかけるのが、国民負担率の上昇だ。国民負担率というのは、国民の所得の何%が税金や社会保険料などに持っていかれているのかの割合である。2010年度に37%だった国民負担率は、2023年には47%にまで上がっている。働いても半分は税金や社会保険料に持っていかれることになる。
物価が上がり、賃金上昇が追いつかず、実質賃金が下がり続けている。消費税を減税すれば、単純に物価は10%(食品なら8%)下がる。賃金が変わらなかったとしても、実質賃金は10%(8%)上がることになる。もちろん賃金が上がれば、それ以上に実質賃金も上がる。
-経済成長の好循環が生まれる
消費税減税により消費が増えれば、多くの人が言っているように経済成長の好循環が生まれるはずだ。
消費が増えれば、企業の収益(売上)・利益も増える。収益・利益を増やした企業は、従業員の給与を上げる。つまり、消費者の給与が上がる。給与が上がった消費者は所得が増えたので、消費を増やす。また、消費が増え続ける見込みがあれば、企業は投資を増やす。投資とは、例えば工場を建てたり機械を買ったりすることだ。投資をした企業が収益・利益を増やす。給与が上がる。このようにして経済成長の良いサイクルが回る。
この過程では、物価が上がる場合が多い。需要(買う量)が増えて供給(作る量)を上回れば、物価は上がる。企業は商品の値段を上げれば収益・利益が増えるし、消費者も給与が上がれば多少値段が高くても買うだろう。全体的に物価が持続的に上がることをインフレ(インフレーション)という。経済成長とは企業の収益も従業員の給与も物価も上がっていく、適度なインフレの好循環のサイクルを回すことである。
-消費税減税に反対する人たち
しかし、政府・与党はもちろん、野党の中にも消費税減税に賛成していない人が多くいる。経団連をはじめ、消費税のさらなる増税を主張する団体もある。
2021年10月に岸田政権が発足したが、ほぼ一貫して消費税減税には否定的である。一方、多くの野党は時限的な税率引き下げを主張してきたが、足並みが揃っているとは言いがたい。立憲民主党の枝野幸男前代表に至っては、2021年の衆院選で掲げた減税の公約は間違っていたと言い出した。社会保障を充実させるためにお金をかけると言いながら、消費税減税と言ったら、どっちを目指すのか、有権者にわからなくなるというのが、その理由である。岸田首相は23年10月25日の衆院本会議で、消費税に関し「社会保障の財源として位置づけられ、税率引き下げは考えていない」と述べている。
経団連は2023年4月に、持続可能な資本主義を実現するには「分厚い中間層」の形成が必要と提言した。多くの人が中間層として経済的な豊かさを実感し心身の幸福や希望がかなう社会を目指すのだと言う。その一方で消費税の増税が必要だと強調している。全世代の国民が負担する消費税は、公平で安定的であり、社会保障財源の有力な選択肢だからだそうだ。
国民の中にも、消費税減税を支持しない、あるいは増税を求める人々がいる。それはすっかり消費税のウソにだまされているからだ。この連載では消費税の5つのウソを一つ一つ暴いていく。まずは、消費税は「社会保障が目的の税である」というウソから始めよう。
1. ①消費税は「社会保障が目的の税である」というウソ
-消費税は目的税ではない
岸田首相をはじめ政府・与党も経団連も、消費税が減税できない理由(あるいは今後増税すべき理由)は、消費税が社会保障を目的とした税だからというものである。社会保障が目的と言われて、とりわけ世界で最も高齢化が進む我が国では、それに反対する人はあまりいないだろう。しかし、これは大嘘である。
そもそも消費税は、目的税ではない。目的税とは特定の経費にあてる目的で課される、つまり、その使いみち以外に使うことができない税である。例えば、自動車取得税や都市計画税などがそれにあたる。それでは、消費税は社会保障費にしか使われていないのか? そんなことは全くない。
消費税が10%に引き上げられる以前の2017年10月、当時の安倍首相は8%から10%への引き上げによる増収分5兆円から、社会保障の充実にあてられる1兆円を除いた、借金返済にあてる4兆円のうち、2兆円を教育無償化などにあてると表明している。消費税の全てが社会保障に使われているわけでも、使わなければいけないわけでもないことになる。しかし、そうした議論をするまでもなく、消費税が社会保障の財源などというのは詭弁に過ぎないのだ。
-消費税が増えた分、法人税と所得税が減っているだけ
1990年度と2018年度の一般会計税収を比較してみよう。90年度の税収は60.1兆円で過去最高であったが、その後のバブル崩壊や景気低迷のために税収は下がった。税収が元の水準に戻ったのが18年度(60.4兆円)なので、税金の内訳を比較しやすいのである。
ほぼ平成にあたる約30年間で、消費税率は3%から5%に(1997年)、5%から8%に(2014年)引き上げられた。その結果、総税収に占める消費税の比率は8%から29%に増えている。一方、所得税の最高税率は70%から45%へと引き下げられ、総税収に占める比率は43%から33%になった。また、法人税の税率は40%から23.2%に引き下げられ、31%から20%へと比率を下げている。何のことはない。所得税と法人税の減少分21%(所得税は10%、法人税は11%)を、消費税の増加分が補ったのである。
その後、2019年10月には消費税が8%から10%へ引き上げられた。2022年度の税収は71.1兆円で、2018年度から10.7兆円増え、史上最高額を更新している。所得税や法人税も増えているが、消費税が5.4兆円と最も増えており、増収分の半分を占めた。
22年度の一般会計歳出のうち社会保障費は36.9兆円に及ぶ(総額は130兆円を超えるが、残りは保険料などでまかなっている)。しかし、お金に色はついていないのだから、どの税金をどの支出にあてたかなど、わかるわけもない。消費税を社会保障費に使ったと言っても意味のない話である。
-所得税、法人税が減って、いいことがあったのか?
所得税が減って最も得をするのは、当然富裕層である。例えば、個人金融資産残高は1990年に初めて1,000兆円を超えたが、2022年12月末には2倍を超え、2,023兆円と過去最高になっている。
一方、法人税が減って最も得をするのは大企業であろう。法人税率の高さが日本企業の競争力を損なっているという話が90年代にあったが、税率は下がっている。逆に2001年以降、リーマンショックの時を除けば、企業の利益は上がり、内部留保は増えた。内部留保とは、利益の累積分と考えればよい。大企業の内部留保は、90年度は100兆円を超える程度であったが、22年度は511兆円と過去最高を更新した。こうした数字は所得税と法人税の減少だけでは説明できないかもしれないが、同じ期間の実質賃金はほとんど増えていないことを考えれば、誰が得をしたかは明らかである。
社会保障のために税金を増やす必要があるにしても(本当に増やす必要があるのかどうかについては、改めて検討するが)、どの税金を増やすのがよいかを考えなければならない。経団連などが消費税の増税を提唱する理由の一つは、「消費税は最も公平な税」だからとされている。しかし、これが2つめのウソなのである。(つづく)
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