まじめな奴が国を滅ぼす -間違いだらけの経済常識- [4]消費税5つのウソ(第4回)

国や世の中のことを良くしようと考えている人のほとんどが、日本を滅ぼすことに加担している。なぜなら彼ら・彼女らの経済に対する考え方が、致命的に間違っているからだ。そんな悲劇的な状況を少しでも変えるべく、この連載を始めた。まずは「社会保障の財源」として国民が納めている消費税が、いかに我が国をダメにしているか、いかにウソだらけの税金か、からスタートしよう。

今回はその第4回(最終回)である。

6. ⑤消費税は「そもそも消費者の代わりに企業が払っている」というウソ

-消費税は、消費者からの「預かり金」ではない

手元のレシートを見れば、内税・外税の違いはあるにせよ、価格の小計と10%の消費税額(食品なら8%)と合計金額が表示されているだろう。あなたは商品を買ったお店に10%(あるいは8%)の消費税を納めたのだから、それを預かったお店はその分を税金として収めなければならない、と当然考えるだろう。ところが、これは大ウソなのだ。消費税のウソの中でも最も巧妙で悪質なウソと言える。

消費税は企業が売上の10%/110%(食品なら8%/108%)を国と地方自治体に納める。ただし、正しくは売上から仕入れ額を差し引いた額の10%/110%(食品なら8%/108%)である。例えば、小麦を生産する農家、小麦を仕入れて小麦粉を作る製粉所、小麦粉を仕入れてパンを作る製パン会社、パンを仕入れて消費者に売るパン屋があったとして、農家、製粉所、製パン会社、パン屋それぞれの売上全部に消費税をかけていたら、何重にも税金をかけることになってしまう。だから、それぞれが作り出した価値(これを付加価値と言う)に一定比率をかけて消費税を取るのである。日本以外で消費税ではなく「付加価値税」と呼ぶのはそのためだ(日本中の国内居住者による付加価値を全部足し上げたものが、GDP=国民総生産となる)。

企業は消費者から預かっている分を消費税として払っているわけではなく、売上から仕入れ額を差し引いた分の一定比率の額を払っている。消費税が「預かり金」ではないことは、判決も出ている事実だ。企業が消費税以外に払っている税金も、元を正せば消費者などからの売上から払っているわけだが、消費者からの預かり金ではないのと同じことである。

-中小企業や個人事業主に過酷な消費税

「なぜ消費税が預かり金でないことにこだわるのか?」と思った人もいるかもしれない。それは、消費税が消費者にとってはもちろんだが、中小企業や個人事業主にとって過酷な仕組みだからである。

消費税を納める企業(事業主)にとって、その税額は消費者に売るにしても他の企業に売るにしても(買う企業にとっては仕入れになる)、価格によってすべてが決まる。しかし、商品の価格とはまず本体の価格を決めて、それに10%(食品なら8%)を乗せるといった形で決まるわけではない。需要と供給や、力関係で決まるのだ。消費税がかかるからと言って、その分を価格に上乗せできる(転嫁できる)とは限らない。特に大企業に商品を納める中小企業や個人事業主はそうだろう。消費税分を上乗せして請求などしたら、取引を切られてしまうと考えるかもしれない。最近下請け企業への支払金額を不当に減額した大手企業もあった。消費税の滞納企業は多いと聞くが、価格に転嫁ができず、利益が出なくても、売上があればかかるのが消費税なのである。

-輸出大企業は消費税を払っていないどころか、もらっている

消費税は中小企業や個人事業主にとって過酷な仕組みと書いたが、逆に6.6兆円もの消費税が主に大企業に還付されている(2022年3月期)と聞いたら驚くのではないか。これは政府が発表した22年度税収予算26兆円の1/4にも当たるのだ。6.6兆円のうち、1.7兆円は大企業上位20社に還付されていると推計できるそうだ(「全国商工新聞」2022年10月24日)。

どういう仕組みになっているのか? 輸出した商品は消費税分10%の売上は乗らないから、下請けなどに払った消費税分が還付されるのである。消費税は個々の取引についてかかるわけではなく、1年間の「売上引く仕入額」に対してかかる。つまり、国内の売上額と仕入額(国内向け商品、輸出向け商品両方に関わる)を比べて、仕入額の方が大きければ、その分が還付されることになる。したがって、輸出比率の高い大企業には多額の還付金が支払われる。

しかし、大企業は下請け企業に消費税を払ったわけではない(消費者がお店に消費税を払ったのではないのと同じことだ)。そもそも仕入れの価格は需要と供給、それ以上に力関係で決まることは前に見た通りである。ということは、中小企業や個人事業主が支払った消費税のかなりの部分は大企業に渡っているというのが実態なのだ。

にわかに信じられない人もいるかもしれない。しかし、そもそもこの仕組みを初めて導入したのは、1948年のフランスの製造業者売上税(54年に付加価値税と名称変更)であり、当時輸出力の弱かったフランス企業への輸出促進のためのいわば補助金だったのである。

-給与を削れば、消費税は減らせる

消費税は企業の売上から仕入額を差し引いた額=付加価値に対してかかると説明をしてきたが、このことは企業の経営に何をもたらすのか? 一言で言えば、企業は給与を削ろうとする。

【消費税と法人税の計算ベース】
(藤井聡・森井じゅん「消費税減税ニッポン復活論」ポプラ社 2022年)

売上高から原価等(外注費)と人件費を引くと利益になる。法人税はこの利益が計算ベースとなり、税率をかけて税額が算出される(図の右)。これに対して、消費税は付加価値が計算ベースとなる(図の左)。前にも説明した通り、付加価値とはその会社が生み出した価値であり、売上高から原価等(外注費)を引いたもの、すなわち人件費+利益だ。これの10%/110%(1/11)が消費税額である。

ということは、人件費を払うより仕入額(外注費)を増やした方が消費税額は減るから、得になる。法人税であれば、税金を払うくらいなら社員の給与を増やそうとなるが、消費税では給与を減らそうとなるのだ。

連載の第1回で、消費税減税で消費が増えれば、経済成長の好循環が生まれるという話をした。それは、消費の増加により収益・利益を増やした企業が従業員(=消費者)の給与を上げ、さらに消費が増えるという循環だ。しかし、消費税はここでも好循環を阻害する方向に作用するのである。

7. おわりに

4回の連載で、消費税がいかにウソだらけの税金であるかがわかったと思う。

(1) 消費税は社会保障が目的の税ではない。消費税が増えた分、法人税と所得税が減っているだけである。消費税を減税すると、社会保障費を削らざるを得ないなどというのは、悪質な脅迫だ。

(2) 消費税は薄く広く徴収するから一番公平な税だというのは大間違いである。所得の少ない人ほど負担率が高くなる(=逆進性)のに、どこが公平なのか。

(3) 3回の消費税増税は、日本経済に致命的なダメージを与えた。「失われた30年」の起点となったのは、1997年の5%への消費税増税である。消費税増税が消費支出を減らし、景気を悪化させたことで、税収は減り、かえって財政赤字を悪化させたのだ。

(4) 日本の10%に対してヨーロッパは20%前後だから、まだまだ上げられるという人がいるが、欧州諸国には生活必需品の税率は低いなどの軽減税率がある。北欧型の高負担・高福祉を目指すという考え方はあってもいいが、負担の方法がなぜ消費税増税なのか?(少なくとも他の方法を考えるべきだ。)

(5) 消費税は消費者の代わりに企業が払う税金ではない。企業が「売上引く仕入額」をベースに納める税金である。その結果、消費税分が請求できない中小企業を苦しめ、輸出大企業に大規模な還付金をもたらし、企業に人件費削減を促進する悪税なのだ。

消費税は消費支出を減らす(3)、給与を下げるのにつながる(5)ことから、日本経済停滞の原因であり、経済成長の好循環を阻害している。しかも、所得の少ない人や中小企業に厳しく(2, 5)、大企業には甘い(1, 5)。そもそも社会保障のためというお題目からして、まやかしである。

【経済成長の良いサイクル】

消費税を減税、廃止することで、日本経済の復活も見えてくる。連載の第1回で示した「経済成長の良いサイクル」だ。

消費が増えれば、企業の収益(売上)・利益も増える。収益・利益を増やした企業は、従業員の給与を上げる。つまり、消費者の給与が上がる。給与が上がった消費者は所得が増えたので、消費を増やす。また、消費が増え続ける見込みがあれば、企業は投資を増やす。投資をした企業が収益・利益を増やす。給与が上がる。

という話をすると、「財政赤字はどうするのか?」という疑問が浮かぶだろう。そのためには、少なくとも消費税を上げるのではなく、他の税金の増税を考えるべきであるし、そもそも「財政赤字はどれだけ問題なのか?」という話もある。それについては、改めてこの連載で取り上げたい。(このシリーズ・おわり)

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