『ある行旅死亡人の物語』<毎日新聞出版>

こういった類の新刊書を買うのは久しぶりですね。
まぁ歳も歳ですから古本屋で買うほうが多く、新しい本を購入すると言っても内容は古い事柄についてのもので、こういう風な週刊誌的というか現在の事件についての本は滅多に購入していないです。

この本の話題は「現金3400万円を残して孤独死した身元不明の女性の素性」を探していく話です。話の展開も早く文章も明解なので、お勧めできます。

といってここでわざわざ取り上げたのは本書の感想を書き込みたいわけではなく、《人が生きるということは、他人との関係で成立している》ということを改めて感じたからです。

ここで取り上げられている女性の方も、この本を読めばわかるように、いろいろな人と話し、交わって生きてきたわけです。でもそういった他の人々との関係を薄めて行き、最後には「行旅死亡人」すなわち身元不明の死体として処理されたわけです。

人が誰であるかは、直接的には戸籍や住民票といった公的なものや、住んでいる場所・務めているところでの行動で判断されるでしょうが、もっと深いところで、人個人としてのあり方もまた他人との関係で成立していると思います。

勿論本書の範囲を超え、また本書では当然取り上げていませんが、この女性の方がどうしてこういう生き方をしたのか、どうして自分の姉妹とも縁を薄くして行ったのか等々、この女性が生きて来た上でなされた数々の選択は、この女性の周囲にいた方々との関係でなされていたと思います。

人は決して Cogito,ergo sum といった単純で孤立した考え方では捉えきれないものと思っています。

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