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マリアの風 第一話

第一話

高校に入ってから、すぐに仲良くなったクラスメイトの岡田から、中学の時の同窓会をやるので、伊藤も一緒に来ないか?と誘われた。

いやいや、誰も知らない所へノコノコと
出掛ける程、メンタルが強い訳ではないから
丁重にお断りをしたよ。

何故俺なのか理由を聞いても、
よく教えてくれず、とにかく来いという。
何かの意図があるんだろうな、彼の顔を立てて参加する事に決めた。
日時は1週間後の日曜日、岡田の母校でという事になっているらしい。

自宅に戻って来た俺は、冷静になってきたのか、OKした事に後悔し始めていた。
必ず行かなければならない訳も聞かされては
いないし、そもそも俺自身に行く理由がない。

「何か騙されているのかなァ〜?」

心の中にあるモヤモヤを少しでも晴れさせる
事が出来たらと思いガレージに向かった。

台所の奥で母親が

「駿太!出掛けるの?遅くならない内に帰って来なさいよ!ご飯はどうするの?」

いつもと同じ様な反応。

「ゴメン、一応残しておいて!行って来ます」

ガレージのシャッターを勢いよく開ける。
中にはヤマハRZ250。
小学生の頃から貯めていたお年玉と、
高校2年間のアルバイトで稼いだギャラで手に入れた愛車。憧れに憧れたバイク。

発売当初の衝撃は凄かったとしか言えない。
2ストロークスポーツと言えば、その昔はKAWASAKI 500SS。マッハⅢに代表される、
俗に言う " じゃじゃ馬 " という代物。
スタートの際、迂闊にクラッチを繋ぐと
ウィリーの洗礼を浴びる。
マッハⅢは3速でもウィリーをしたと言われた。かと言って、ソロソロと遠慮気味に繋ぐと
簡単にエンストを起こした。

まだある。
バンク角が余り無かった為にコーナーで
倒し込めず、曲がるのは至難の技だったし、
エンジンブレーキは効かないし、
扱いにくい事が
「キ◎ガイ マッハ」と呼ばれた所以だった。

おまけにガソリンは喰うから燃費は悪いし、
エンジンオイルを撒き散らしては黒煙を出す。良い所など一つもないような2ストスポーツ。

そんな折、ヤマハがRZ250を発売したんだ。
周りのエコだ、環境保全だ、とかの風潮に
逆らうかのような発売だったな。

確かにクセがあるため、好きと嫌いがハッキリとしていると思うし、女性ライダーには向かないのかも知れない。

だけど、パワーバンドに入ったRZは
とんでもないバイクに変身したんだ。

サッカーの世界に " ジャイアントキリング " という言葉があるけれど、RZ250は大型バイクを峠道などで大物喰いをしてきた。
そして付いたあだ名が

" ナナハンキラー " 

赤いラインに彩られたRZ250に跨り、Araiの
フルフェイスを被ってガレージを出た。
いくら高出力、高回転のバイクといっても
低速でのんびりと走る事は出来る。

街はもう、夕餉の支度の時間。秋口の夕焼けが目に染みる、俺の一番好きな時間帯だ。

あの家はカレーだな、あそこんちは焼き魚かぁそんな家庭の切り抜きを楽しんでいた。

今から10日程前、同じ様に街中を流してから、以前借りていた半キャップのヘルメットを返しに友達の浜中の所へ行く途中の出来事だった。

俺は一人の女の子と出逢った。

「ねぇ、その後ろのシートに置いてあるのってヘルメットでしょ?乗っけてってよ!」

「えっ?」

信号待ちをしていた俺に、交差点の角にある
コンビニの入り口横で体育座りをしている
女の子が声を掛けてきた。

「何だって?」

「だから、これはヘルメットなんでしょ?
そしたら二人乗りは出来るんだよね!」

その娘は俺とRZに近付きながらそう言った。

「そうだけど、君は一体誰?」

近くで見ると、どこかしら女優の小芝風花に
似ていなくもない。案外カワイイかも……。

「いいのいいの!ほら、早くしないと後ろ、
車がつっかえちゃうよ!」

半ば強引にRZに跨ってきた彼女に戸惑いながら愛車をスタートさせた。

                  つづく


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