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マリアの風 第四話

第四話

思いもかけない話を岡田から聞かされて動揺が隠せない俺だったが、それよりも幼稚園の頃より綺麗に、大人の女性への入り口に立っているであろうマリアにも動揺していた。

2週間前に気が付かなかった事も
無理もないか。

「それにしてもずいぶんと変わったというか、キレイになったというか……」

そこまで言って照れてしまった。

「なぁ岡田。もしかしてこの同窓会、俺たちの為にダミーで開催したんじゃないのか?」

「よせやい!僕はそれほど人が善くないよ。
だけど、いいチャンスだと思い企画を被せた事は事実だよ。
皆んなは本当の同窓会だと思っているから、
裏テーマをバラしちゃ駄目だよ!
じゃ、お二人さん。積もる話があるだろうから
僕はここで」
岡田はホントの同窓生の所へ行ってしまった。

「マリア。本当にマリアなんだね!」

「何よ、全然気が付かなかったくせに!
何がお嫁さんにしたいよ!」

「憶えていたのか!」

聞きたい事はいくらでもあったが、とても
同窓会の中ではそぐわない話も出てくる
だろうから、会が終わって
場所を変えようとなった。

同窓会も無事終わり岡田たちと別れる事に。

「岡田、わざわざ俺の為にありがとう」

「けっ、別に伊藤の為だけじゃないって。
僕も中学の仲間と会いたかったし。
じゃあ、気を付けてな!」

岡田はぶっきらぼうな態度をとっているが、
ヤツの優しさが滲んで見える。

今日は予備のヘルメットを持ってなかったから俺はRZを押しながら近くのファミレスまで、
マリアと並んで歩いた。

その時俺は、自分達の事を、まるでゴールデンレトリバーを連れて二人仲良く散歩をしている老夫婦のように見えたんだ。

そんな将来がくるのかな。

ファミレスに着いてから
俺たちは10何年間の隙間を埋めるように夢中で話し合った。だだし、どんな生活だったとか、具体的なことは聞かなかった。

思えば10数年、俺の事を一途に思っていて
くれた彼女。
目の前で美味しそうにパンケーキを頬張り、
口元に生クリームをつけたまま幸せそうな
笑顔をするマリアの事を、すごく、ものすごく愛おしいと思った。

その笑顔の裏に苦い涙がどれだけ
流されたんだろう。
しかし幸いにも再婚相手の岡田の親父さん、
岡田と、良い人に恵まれたんだと思う。
そしてその中で、こんな俺の事を忘れずにいてくれた

マリア。

唐突だと思ったけれど俺はマリアに言った。

「マリア。突然だけど、これを期に俺と付き
合ってくれないか?」

するとマリアからは

「今さら?私はあの日、駿ちゃんを見つけて
二人乗りをした時から付き合うのは当然だと
思っているわ!」

「マ、マリア!」

「あれ?お嫁さんにしてくれるんじゃ
なかったっけ?」

俺は思わず立ち上がり、店内にいる全ての人々にこの嬉しさを伝えたくなったんだ。

誰かが初恋は実らないと言ってたけど、そんなのデマだぞ!と叫びたかった。
ジンクスを破った男がここにいるぞ!って。

あっという間に二人の楽しい時間は過ぎて
いき、別れの時間が来たようだ。

店を出てマリアを送って行く事にした。
マリアの家の近く(岡田の家でもあるんだよな)まで来てしまった。
もうお別れか……

「駿ちゃん。今日は来てくれてありがとう!
今度は離れたくないよ!」

「あぁ俺も同じだよ。またライン入れるから」

俺は振り返りRZに跨がったけれど、キーを
回すことが躊躇われた。

「どうしたの?」

「あと5分、あと5分でいいから一緒にいて
くれないか!」

「駿ちゃん……大丈夫だよ。あと5分一緒に
いようよ!」

どうしても直ぐに帰るのは嫌だった。
恋をすると皆こうなるのかなぁ。

別れの時間が来てRZのエンジンに
火を入れた時、

" 良かったな、駿太! "

という声がどこからともなく
聞こえたような気がした。
こいつも祝福してくれてるのかな?

そうだ、マリアのヘルメットを買いに行こうと思いつつ家路についた。       
         
                  つづく



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