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雨宿りのクロ 5

あれからホントに色んな人たちがお店に
来たなぁ。
その中で一番に回数の多かった人は、
京子おばちゃんがよく行く喫茶店 
" ポエム " のママさんじゃないかな。

あんな風に見えて(どう見えてるんだ?)
京子おばちゃんはコーヒー好きなんだよ!

ママさんがお店に来る頻度といったら
「週に二回のノルマは必ず守りますよ! 」
と言わんばかりの勢いだったな。

だから二人は毎日顔を合わせてる訳ね。

でも今日は様子が違って、二人連れで
ママさんはやってきた。

「京子さん、こんにちわ~!暑いねェ。
あら、クロちゃん元気ィ?」

ママさんはボクを膝の上に抱き上げ、
ノドを優しく撫でてくる。

「ニャ〜」

一応、挨拶を返しておかないとね。

「あっ、この猫がお母さんの言ってた猫ね。
こんにちわ、クロちゃん!」

初めてみる女性だったな。

「ママ、今日はどうしたの?」

二人にお冷やを出しながら京子おばちゃんは
声をかけた。

「おう、ママいらっしゃい!」

奥からマー兄が顔を出している。

「京子さん、紹介するわね。
この子は娘の詩絵。もう結婚して家は出て
いるんだけど、ちょっとした事で旦那と
喧嘩して帰って来ちゃって……
どうやったら上手く仲直りや、今後やって
いけるかアドバイスが欲しいのよ!」

「アドバイスったって、アンタも夫婦喧嘩の
経験が一つや二つあるだろう?
それを話してやればいいのに…」

「そうだけど……ほらっ、詩絵からも」

「すみません、お願いします」

「しょうがないわねぇ。まぁ今は他に
お客さんもいないから大丈夫か。
マーちゃん、ちょっといい?」

そう言って、そばの椅子に腰掛けながら
京子おばちゃんは語り始めたんだ。

「喧嘩の原因はなんだい?旦那の浮気かい?
違うんだろ?ならそんなに難しくはないよ。
いい?
あまり自分の主張だけを押し通しても駄目。
人には耳が二つで口が一つでしょ?
喋る倍だけ話を聞きなさい。

そしてどんなに自分が正しくても正論を
そのままぶつけるのも駄目よ。
ウチみたく瀬戸物をたくさん使ってると
分かるわよ。どんぶり同士がぶつかれば
直ぐに壊れちゃうけど、どちらかが柔らか
ければ大丈夫でしょ?ね、マーちゃん?」

「そうそう!母ちゃん上手い事言うねぇ」

「そうか。私の話を聞いてくれないから
何で?どうして?ってあの人を追い詰めて
いたのね」

「一概にあなただけ、一歩引いた方が良い
といってるんじゃないよ。
相手にも相手なりの意見があるのだから、
まずはそれを聞きましょ!」

「分かりました。ありがとうございます。
私から連絡してみます」

「京子さん、ありがとネ!クロの飼い主は
優しい良い人だねェ!ねぇクロ」

二人は少し気が楽になったのだろう、
お蕎麦を食べてしばらく世間話をしていた
所へ、新しいお客さんが来た為、ここが潮時とばかりに二人は帰っていった。

「あれ以来、なんか母ちゃんはさ、
相談役というかアドバイザーというか…
こんなに頼られるんなら幾らかでも貰う…」

「バカ言うんじゃないよ!そんな事をしたら
ご先祖さまや父ちゃんに顔向け出来ないよ」

「そうだよな、そうだよな」

そう話しているところに

「ただいま〜!お腹空いたァ!何かない?」

勢いよく引き戸を開けて、今はすっかり
高校生然としている洋子ちゃんが帰宅した。

母親と兄の姿を見た洋子ちゃんは、

「何二人で深刻な顔してんの!悩んでても
地球は回ってるんだよ!なるようにしか
ならないっしょ!」

洋子ちゃん、ある意味それは真理だぜェ!
                                                                        つづく


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