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マリアの風 第五話

第五話

俺は早速バイク屋に行ってヘルメットを
選んだ。

安全面を考えるとフルフェイスなんだろう
けど、マリアのイメージだと半キャップに
ゴーグルっていう画が浮かんでくるんだよネ。どうしようか?
やはりマリアの意見も聞くべきだったか!

バイク屋としてはフルフェイスを当然のごとく推してくる。
半キャップだと転倒時の安全性を担保できない事と、走行時の風切り音や高速時にメットの
浮き上がりによる首への締付け感等があるけど俺はマリアを乗せて、いくらRZとはいえ、フル加速のツーリングをする気などさらさらない。ならばファーストインプレッションを大事に
した方がいいか!
そして半キャップとゴーグルと
薄手のジャンパーを購入した。

夕方、マリアと以前に行ったファミレスで待ち合わせをした。

「駿ちゃん、こっちこっち!」

「ごめん、待たせたね」

「ううん、今だよ。来たの」

俺は大きな荷物を横に置きながらチーズイン
ハンバーグを注文した。

「マリアは何か頼んだ?好きなの食べてよ」

「今日はそんなにお腹が空いていないから、
このケーキセットにしようかな?
それよりその包みは何?楽しみに待ってろって言ってたけど…」

俺は包みをマリアの前に差し出した。

「開けてごらんよ!」

「え〜何?」

マリアが包みを丁寧に開けてみると、中には
ワインレッド色の半キャップヘルメットと
ゴーグル、それにジャンパー。

「これ、マリア用のヘルメット。これを被ってあちこち、いろんな所へ行こうか」

「ありがとう。うわ〜かわいい色だネ。
そうだね、いろんな所へ行きたいな」

嬉しそうにヘルメットを撫でているマリア。
これからは二人で、いろんな所へ行くと思う
だけで楽しみだ。

実際あれから俺たちは、いろんな所ヘ
出掛けた。

千葉の夢の国はもちろん、マザー牧場、
養老渓谷、鴨川シーワールド、東京ドイツ村。神奈川方面は鎌倉や湘南の海。
富士山に河口湖、箱根など、
本当にあちこちと出掛けた。

「マリアは次に行きたい所とかある?」

二人が再会してから早くも6ヶ月が過ぎようとしていた。

「私ねぇ、鈴鹿にいってみたい!あの有名な
鈴鹿8時間耐久レースを見てみたい!」

「鈴鹿かあ。8耐は俺も見てみたいけど、三重までは遠いゾ!二人乗りはキツいかも…
いやキツい」

「8耐レースって7月末でしょ?
今年はもう無理。
でね、来年の8耐までには私も免許を取るから
2台で行こうよー!
途中キャンプなどしながらサ」

「なるほど、いいなそれ」

確かに一人1台なら荷物も積めるのでキャンプも出来るだろうな。

「でも今は駿ちゃんの後ろがいいナ!」

そう言ってくれるマリアの笑顔が今の俺にとっていいんだよ。

俺たちは週に1〜2度のペースでデートを
重ねた。
もちろんRZには悪いけれど、たまには映画の時もあった。
今日もその数少ない日だったけど、
どうもマリアの様子がヘンだった。

「どうした?どこか具合でも悪い?
何なら映画はまた今度にしてもいいんだよ」

「ごめんね、駿ちゃん。最近、中々疲れが
取れなくて」

やはり辛そうな表情で、何かに耐えているような感じだ。
そういえば、近頃はデートの時もあんまり食べていない事に気付いた。

「一度お医者さんに診てもらった方がいいよ。岡田は知ってるの?」

「薄々変だと思ってるかも」

良く見ると、マリアの額にうっすらと嫌な汗が浮かんでいるのが見て取れた。

「今日の映画はやっぱり止めよう。早く帰って休んだ方がいいよ!」

「本当にゴメンね、駿ちゃん」

こんなにも調子が悪いのに無理して出てきた
マリアを愛おしく思った。

「いいんだ。さあ、帰ろう」

今日のデートは中止して家に帰ろうとした
駅前の広場でついに起きてしまった。


マリアが………倒れた。

                  つづく


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