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マリアの風 第七話

第七話

マリアの状態も今は落ち着いている様子なので
ひとまず帰る事になった。

ただどうやって帰宅したのか、
病院からの記憶がまるで無かった。
出迎えてくれた母親が、
" まるでゾンビが来たみたい!" 
と言っていた。

頭をスッキリさせるためにシャワーを
浴びる事にした。
お湯の温かさが伝わって来る度に徐々に頭が
クリアになっていった。

付き合い始めてからマリアが捻挫など
するような場面はあったか?

" 否 " 

そんな危ない事があれば憶えている。
じゃあどこだ?
どこで起きた?
考えるうちに一つの可能性が出てきた。
ただし確認を取れるのは本人のみ。
果たして認めるのかどうか?

風呂場を出てタオルで髪を乾かしながら
今一度考えてみる。

"  やはり想像しうる事は一つか…… "  

それは、もしかしたら
出会った時には捻挫をしていたんじゃないか?
という事だった。
あのコンビニの前での体育座りが
残されたヒントなのか?

病院にいるマリアの事が気になるのだけれど、
岡田からの連絡がない以上
やきもきした気分のまま過ごさざるを得ない。

この日は朝から今までマリアと行った所の
写真の整理をしていた。
インスタグラムにでも載せようと
撮ってきたものだが、
マリアは " 恥ずかしいからヤダ! " と言って
頑なに拒んでいる。
だけど、スマホの中で飛び切りの笑顔を見せる
マリアを見ていると
いずれはインスタにUPし、残して置きたいと
心から思った。

マリアとRZ250

ディズニーの映画じゃないけど、
" 美女と野獣 " 
タイトル通りの絵面だな。

そうやってモヤモヤした気分を
少しでも晴れさせる事が出来れば、
と思っていた所へスマホが鳴った。

岡田からだ。
マリアの意識が戻り、少しは話せる様に
なったと病院から連絡が来たという。

「今から向かうんだろ、俺も行っていいか?」

「当たり前だ!そのために連絡した」

直ぐに着替え、MA−1のジャンパーを
羽織り、RZに跨がった。
火を入れるといつにもまして
エグゾーストノートが甲高く聴こえる。
" 俺も早くマリアに会いたいよ! " 
と言っているかのようだった。
確かに俺とマリアが一緒の時は
ほとんどお前も居たものな。
" コイツも何か感じているんだな " 
そう思わせるほどピーキーな動きではあったが
それとは反対に病院までの道程が
遠く遠く感じられた。

ようやく病院に着いた。
ナースセンターのすぐ前にある病室に入ると
岡田たち家族はすでに来ていた。

「おう、来たか!」

「様子、マリアの様子は?」

「あっ駿ちゃん……ごめんね……」

当たり前だけど、いつものマリアとは
違って弱々しい。

「マリア、もういい。喋らなくて。
また後で話そう、なっ?」

「伊藤、ちょっといいか?」

俺は岡田と共に休憩ロビーに行き、
缶コーヒーを手にベンチに腰掛けた。

「なぁ喋れるようになったって事は
もう大丈夫なんだろ?」

岡田の少しばかり暗い顔を見て
俺はワザと明るい態度で聞いてみた。

「それがそうとも言えないらしいんだ。
言葉は悪いがロウソクの最後の瞬きみたいな
ものだと医者は言っている。
何せ遅すぎたと。
助かったとしても片脚切断は免れないらしい」

「片脚切断?なんだそれ!マリアもバイクの
免許を取るって言ってるのに!そんなの……」

「あぁ聡史、ここにいたの!
早く、マリアが…マリアの様子が………」
                                                                       つづく


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