もたもた書いたじじいの原稿


どんまい!


「よし、打ってやる」

 正太は力強くバットスイングを繰り返すと、気合いを入れて、バッターボックスに向った。

 「ここでいいとこ、見せなくちゃ」  

🥎              🥎

 試合は終盤に入っていた。正太たちのチームは0:3とリードされている。相手投手の速球に押され、打線は沈黙したままだ。

 しかし、この回、2アウトながら、サードゴロを取り損ねたサードのエラーで、ランナーは一塁へ。

 と、監督のだみ声が響いた。

 「ピンチヒッター、大沢正太!」 strike

 まだ入団したばかりの正太を代打に指名したのだ。

 相手投手は重い速球を武器に、大きなカーブを投げ込んでくる。

 「速球には自信がある。今までも、こんなチャンスで打ってきたんだ」

 正太は自分に言い聞かせると、ゆったりバッターボックスに入った。

    🥎                     🥎

 一球目が来た。

「ストライク!」

思ったより速い。

正太はバットを一握り短く握り直し、肩に乗せた。

二球目だ。

速い。バットが出ない。たちまち2ストライクに追い込まれた。

胸がどきどきする。久しぶりの緊張感。

 「次も速球で決めにくる。おれの直感に狂いはない」

 「気合いで打つ。彼女におれのすごいところを見せてやる」

 🥎                🥎

 三球目、来た。速球だ。 

正太は全身でバットを肩から振り下ろした。

ボーン

鈍い音がした。

正太のバットに当たったボールは、ボアーンと空に舞った。追っかける二塁手の頭を越えて、ライト線手前にポトンと落ちた。

「正太、走れ。二塁だ、二塁だ」

監督が叫んでいる。

「キャー」

 人影もまばらなスタンドから、黄色い声が飛んだ。

 正太は夢中で走った。走った。

 一塁ベースを回り、二塁へ。

 と、とっと、足が重い。体がふらつく。

 足が思うように動かない。「なぜ? 血圧が高くなったか」

正太は二塁ベース手前で、へなへなと座り込んでしまった。

タッチ・アウト。スリーアウトだ。

先ほど、スタンドで、黄色い声援を送っていた女性がつぶやいた。

「だから言ったでしょ、あんた。無理しちゃだめだよ、爺さんなんだから」

        🥎                   🥎

正太が、よたよたベンチに帰ると、胃がんで胃の3分の1は取ってしまったという投手の川田、ペースメーカーを着けた山崎、がん手術を受けて間もない榊原など、仲間が声をかける。「どんまい、どんまい」

「さあ、しっかり守って、今度点を取るぞ」

「オーケー、行こうぜ、行こうぜ!」

 古希野球リーグ戦は、今日も熱気に満ちている。 



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