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音速のドラ猫02



〜三沢基地 アラート待機所〜


ここは、三沢基地のアラート待機所だ。
アラート待機所とは…24時間態勢で領空侵犯してくる国籍不明機(unknown)の対応をするためパイロットと整備員が待機する場所である。
スクランブルはいつ発令されるかもわからない為、パイロットは片時もここを離れるわけにはいかない。24時間待機する為、食事も運ばれてくる。俺も何回かアラート待機任務に就いたが、緊張感はいつも解けない。
毎回、何もない事を祈るばかりである。

樹「あ〜暇やなぁ」

祐介「ですね〜」

???「はるちん暇ちんですヨ〜」

樹「いつも思うんやけど、葉留佳はいつでもテンション高いよなぁ〜」

玄武「確かに」

葉留佳「そ、そうですかネ〜?」

彼女は…
井ノ原葉留佳 3等空尉TACネーム〔シェリー〕
俺たちと同級生だが、入隊期別は一期下で風子や沙都子達と同期である。天真爛漫なお転婆娘でテンションが高い。俺のRIO担当で嫁である唯湖と仲良しだ。姉である佳奈多は班長の奥さんだ。
班長が相手でなければNTRのに…

玄武「葉留佳は緊張しないの?」

葉留佳「やはは…そんな事ないよ…私だって緊張する事はありますヨ〜 」

祐介「え、そうなのか?例えば?」

葉留佳「真人くんとデートする時とか…?」

顔を赤らめる葉留佳、それを揶揄う熊岡3佐

樹「青いなぁ〜 佳奈多よりウブやわ」

葉留佳「樹くん…いや、班長は最近お姉ちゃんとはどうデスか〜?」

樹「う〜ん、相変わらずのツンデレ具合かな」

葉留佳「やはは…お姉ちゃんは相変わらずですね〜 昔と変わらないや…」

玄武「いいな〜」

葉留佳「玄武くんは最近、姉御とどうなの?」

玄武「俺?俺はいつも苛められてるよ。今日だってとっておきのバーに…うぐっ」

樹・祐介「お前、口閉じろ」

無理やり3佐達に話を遮られる。
折角彼女に俺と唯湖のキャッキャッムフフについて語ろうと思ったのに…

ジリリリリリリン

その時、発令士官の元に一本の連絡が入る。

発令士官「了解、スタンバイに入ります。」

佐渡のレーダーサイトからの連絡だ…
フライトプランに該当しない国籍不明機が日本の領空に接近していると一報が入った。

俺と葉留佳はにわかに緊張した。
高崎1尉と熊岡3佐も真剣な顔つきになる。

スクランブル待機所には俺たちの他に、3時間待機の302飛行隊パイロット、春原2尉TACネーム(ベンザ)前原2尉TACネーム(ウルフ)の計6名が待機している。
✳︎302飛行隊はF-35を使用している。

春原2尉は落ち着かないのか、地図を広げて国籍不明機の位置を確認している。前原2尉も同じで2人とも落ち着かない様子だ。

樹「まぁまぁ、落ち着きんさいな2人とも」

陽平「で、でもッ」

圭一「分かってます…分かってます」

ソワソワする2人を落ち着かせる熊岡3佐
俺は徐に地図を開き高崎1尉に尋ねた。

玄武「高崎さん、ポイント的には現在地はこの辺りですか?」

祐介「あぁ…防空識別圏ギリギリを飛んでるからね…」

圭一「くそッ…焦ったい。来るなら来い!」

数分後…
前原2尉の願いが通じたのか…ホットラインの電話が鳴った。

発令士官「01スクランブル!」

ピーッピーッピーッピーッピーッピーッピーッピーッピーッピーッ

俺と葉留佳は直ぐに駆け出し、格納庫にあるF-14DJに乗り込みエンジンをスタートさせた。


 キュィィィィィィィィィィィィィンッ クォォォォォォンッ

樹〔TWR  Altair03 flight checkin〕

玄武「05」

熊岡3佐の無線に復唱する形で俺も応答した。



TWR〔Altair03 unknown vector190 altitude33 by gate Follow data Link。〕
〔アルタイル03 国籍不明機は方位190 高度33000ftを飛行中、最大加速で離陸 離陸後はDC(防空指揮所)のデータリンクに接続せよ。〕

樹〔Altair03 roger 〕

玄武「05」

ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ

熊岡3佐の駆る機体がフル加速で離陸していくそれに続き俺と葉留佳の乗るF-14DJもアフターバーナを焚きフル加速で離陸した。
スクランブル指令からここまで約5分だ。

これが国防の最前線だ…

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〜 D5空域 〜

佐渡沖200km 地点に訓練空域はある。

柊甫〔おーし、揃ったね。ルールはさっきブリーフィングで説明した通り制限時間20分以内で相手の背後を取った方が勝ちや〕

全員〔了解ッ〕

こうして戦いの火蓋は切られた。

理樹「豊、敵の位置は?〕

豊〔今確認している、buff this is Altair06 request TGT position〕
〔バフ、TGTの位置知らせ〕

豊は地上の迎撃管制官と交信した。
バフとはレーダーサイトのコールサインだ…

バフ〔Altair06 this is buff TGT
vector160 range100 Mach0.75〕
(TGTは方位160 距離100mi マッハ0.75で接近)

豊〔roger Altair06…敵は160°から0.75で接近中、距離は100miだ。〕

理樹「了解、ソード敵は…」

朋也〔確認した。さ、どう動くんだ?リトル〕

沙都子〔レーダーレンジはまだ探知距離外ですわね…後3分もすればレーダー探知距離ですが…〕

理樹「ソード僕にピッタリ付いて来てください。」

朋也〔何か思いついたようだな。〕

理樹「これなら…行けますッ」

朋也〔了解した。〕


戦闘機が動く時、最大9Gの負荷が身体を襲う
そんな中でも僕は冷静な判断を下しウィングマンに指示を出さねばならない。

数分後…

ピッピッピッピッ

豊〔レーダー探知 距離65マイル〕

理樹「機数は!?」

豊〔2機だ〕

理樹「僕の読みが正しければ、向こうのレーダーには1機だけしか映らないはず…」

朋也〔さぁ、どう動く…安村さん〕

自機のレーダー画面からは2機の敵が真っ直ぐこちらに向かってくるのが分かった。

数分が経ち…
そろそろ目視で確認できる距離だが…


(見つけた!音無2尉(カナデ)の機体だ!)

理樹「TGT tallyho!ソードoffense!」
〔敵機視認ッ ソード攻撃に入れッ〕


朋也〔roger!〕

僕はすぐさま、岡崎1尉(ソード)に敵機(カナデ)の背後に付くよう指示を出した。
ソードがカナデを追いかけている間、僕は少し上からその様子を観察し、ソードに事細かく指示を送る。

理樹「そのまま、回れ もうちょっとだ。」

朋也〔offense 入る!〕

理樹「入れ。」
  (もう少しだ!)

ソードに指示を出しつつ僕は副隊長の

安村3佐(ジャック)を探した。

朋也〔こなッ クソッ…ちょこまかと〕

沙都子〔朋也さんッ〕

結弦〔中々やるな、朋也さん…更に腕を上げたな…しかし、こちとら伊達に三沢のNo.2じゃないんだよッ 風子、敵の位置は!?〕

風子〔背後を取ろうとしてますッ!〕

結弦〔よし…アレをやるぞッ〕

風子〔分かりましたッ いつでもどうぞッ〕

結弦〔3.2.1....今ッ〕グッ

俺は操縦桿を一気に引き上げ機体を引き起こす
そして、岡崎1尉は俺を追跡していた事で速度がつき過ぎたのだろう前に出てしまう。

風子〔形成逆転しましたッ〕

結弦〔ふぅ…うまくいったな〕

朋也〔チッ…舐めんなよッ〕グッ

沙都子〔背後を取られてしまいますわッ〕

僕は音無2尉の一連の動きを上空から見ていた

理樹「す、凄い…」

豊〔感心してる場合じゃねぇぞ ジャックを探せ!〕

理樹「分かってるッ」


そういえば、安村3佐(ジャック)の姿が見当たらない…どこだ…?

そう思った矢先…

ピロロロロロロロロロ  

朋也〔リトル defence!〕  

柊甫〔リトルのdefence〕

ロックオンされてしまった…ウィングマンに指示を送るのに集中しすぎて後方を見てなかった。カナデを囮に使ったジャックは密かに僕の後方に忍び寄っていたのだ…

理樹「負けた…完敗だ。」

朋也〔惜しかったな 理樹。〕

結弦「ロックオンされるまでの追い込み、なかなかキツかったです…朋也さん」

柊甫〔訓練終了、帰投する。〕

全員〔了解〕

帰投途中、僕は考え事をしていた。

(僕は空自最高峰のパイロットになれたのは良いが、本当にこのままでも…)

その悩みを見透かしたかのように、岡崎1尉から無線が入る。

朋也〔理樹、今日のお前の指示は間違ってない。 だから気にするな。〕

理樹「ありがとうございます…。」

豊〔ドンマイドンマイ、次ッ 切り替えてこ〕

理樹「うん…ありがとう。豊」

見慣れた三沢の街が見えてきた。
僕たちは着陸態勢に入った。

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〜日本海上空〜

樹〔Trello this is Altair03
     now maintain angel33 〕
(トレロ こちらアルタイル03 現在高度9900m)

トレロ〔Altair03 this is Trello 
your under my Control stare 180
   maintain prasent angel〕
(アルタイル03こちらトレロ 貴機を誘導します。同高度にて方位180へ)

樹〔Altair03 roger〕

玄武「05 roger」

日本海上空で熊岡3佐はトレロ〔佐渡レーダーサイトの迎撃管制官〕と交信する。

数分後 会敵予想ポイントに到達…


樹〔TGT tallyho Altair05 写真を頼む。〕

玄武「05了解。葉留佳、写真撮影頼むよ」

葉留佳〔任せてくださいヨ〜〕パシャリ


国籍不明機はロシアのtu16爆撃機1機だった。
爆撃機の周囲を旋回し熊岡3佐はすぐさま、通告行動を開始した。

樹〔貴機は日本の領空を侵犯する可能性がある直ちに引き返せ。繰り返す、貴機は…〕

ロシア語で通告する、しかし爆撃機は依然進路を変えない。

玄武「Altair03 もうすぐ、領空です…」

葉留佳〔いつもよりしつこいデスね…〕

樹〔繰り返す、貴機は日本国領空を…〕
(俺達が撃てない事を良いことに…頼むから早く帰ってくれ…ほろよい飲みたい)

3回目の通告でやっと3佐の願いが通じたのか、tu16爆撃機は北へ進路を取り領空の外へと出た。 任務終了、毎度の事だが冷や汗が出る仕事だ…1つ間違えると国際問題…果ては戦争に発展しかねないからである。

樹〔Trello this is Altair03unknown is SITE OUT say again unknow is SITE OUT〕
(トレロ国籍不明機は防空識別圏の外へ出た。
繰り返す国籍不明機は防空識別圏の外へ出た。)

トレロ〔roger   Altair RTB〕
(アルタイルは基地へ帰投せよ〕

RTB=Return To Base の略

樹〔Altair03 roger〕

玄武〔05〕

葉留佳〔ミーシャ あの…〕

樹〔どした?シェリー〕

葉留佳〔今回は素直に引き返してくれましたけど…あれが実は…と考えるとゾッとします…〕

樹〔そうやな…しかし、俺たちの仕事は最悪の事態を未然に防ぐ抑止力も含まれる。キツいだろうが国のため家族のためや…〕

葉留佳〔そうですね… 〕

玄武「どしたん?えらく元気無いじゃん」

葉留佳〔そんな事ないよ!私は元気ですヨ〜〕

祐介〔あ、いつもの葉留佳に戻った。〕

樹〔さ、基地に帰るわよ〕

3人〔了解ッ〕

俺達は三沢基地を目指して帰投した。


         続く…


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