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ぼったくりも客が高くないと思ったら正統なサービスになるのかやってみた

こちらは、《静かな森でひとり》さんの『祖父母が住んでいた先祖代々からの古い屋敷を取り壊したら床の間の床下に祠が埋めてあった』のサイドストーリーです。フィクションです。

久しぶりの宿泊出張だった。

『孤独のグルメ』みたいに充実した食事に憧れないと言えば嘘になる。
ただ、店を探したりするのがめんどくさくて、大抵はコンビニでビールとつまみを買って早々にホテルへ引きこもってしまう。

今回もそのつもりだった。

仕事を終えてホテルへの帰り道。
慣れない道をスマホ片手にGoogleマップの指示通り歩く。

そろそろだなと思ってスマホから目線を上げると、目の前に現れた店からオレンジ色の優しい灯りが漏れていた。
店先には花輪が飾られている。
オープンしたばかりのようだ。

『スナックゆったん』

スナックなんて行ったこともなかったが、ちょうど腹が減っていたのと、妙に中から呼ばれる気がして、気が付けば店のドアに手をかけていた。

カランコロン


まるで喫茶店のようなドアベルの音と共に、店内の様子が目に入ってきた。

控えめな照明に照らされるのはテーブル席が2つとカウンターのみ。

壁にはどこかアジアの国で売ってそうなタペストリーが飾られている。カウンターの奥には酒の他に、あのヘッブシコーラの懸賞で当たるボケモンのフィギュアが所狭しと飾られている。

全くカオスやな。そんなことを思っていると奥から声がした。

「いらっしゃいませ。カウンター席へどうぞ~。」

カウンター奥からいそいそと出てきた店主を見て驚いた。この場合ママというのだろうか?にしてはとても若い。そんなことより、だ。


「あれ?ゆうきちゃん?!ほら、中学一緒やった、、おれ。藤川!おぼえてない?」


「藤川……さん?はて?」


スナックのママはおれの初恋の人、ゆうきちゃんだった。20年経ったが間違いない。この小柄で派手では無いのに、何故か存在感があって目が離せない可愛らしい笑顔。こちらを見ているようで見ていない、、と油断すると目が合う不思議な視線。おれは一気にあの頃の中学校の教室にいるような感覚におちいり、また彼女も同じであることを期待してしまった。


「……ウチあんまり学生時代いい思い出ないから覚えてへんねん。」


なんだ、この急な方言女子。全力でかわいいじゃないか。そして全力であざとい。


「でも、今藤川くん思い出したかも~。実はウチな、藤川くんが部活頑張ってるのこっそり応援しててん。」


え?まじ?気付いてなかったーー!!なんて勿体無いんや。


「夢の中でな、藤川くん、ゆうきを甲子園に連れてってくれへんかなって思ってたん」


え?なにそれ、嬉しすぎるやろーー!!!
まじでかわいい!





でもおれバスケ部やったけどな。


まあこの際、野球部でいいわ。おれきっと野球やってたわ。野球サイコーや。



「そんな藤川くんに、今日はメジャー級のプレゼントがあります❤️ྀི


上善如水じょうぜんみずのごとしを1杯無料でプレゼント!」


あ、地元の日本酒やん。すごいなゆうきちゃん。おれ日本酒飲めへんけど、これは飲むしかないな。


「あれ、藤川くん、動かんといて?口元にご飯粒ついてるよ?ほら……」


え?どうゆうこと?昼からずっとついてた?んなわけあるか!


などと考えていたらゆうきちゃんはその白い華奢な手を伸ばし、おれのくちもと、ではなく鼻と口の間からご飯粒をとって自分の口に入れた。


そう、エアで。


もちろん米粒なんて付いてなかったのに、ゆうきちゃんはエア米粒をとって、エアぱっくんしたのだ。


頭の中で赤いパトランプが忙しなく回り始める。


エアエアエアエアエアエアエアエアへアヘアヘア


突然の出来事に恍惚の表情を浮かべながら、ゆうきちゃんが優しく丁寧に巻いてくれたであろうだし巻き玉子を口に放り込んだ。


これは近くのイオンの味がする、と舌は言っているがすぐに違うと思い込むことにした。
そうだ、おれはバスケはやってない。
野球でゆうきちゃんをメジャーに連れていく男だ。そう、おれは野球をやっていた。



結局だし巻き玉子と、漫画日本昔ばなし並の山盛り白ご飯と、イオンのプラパックに入ったお漬物を食べておれの出張先での晩御飯は終了した。


最初のエアぱっくんが終わった頃に、別の客が入ってきておれとゆうきちゃんの時間は終わった。

仕方なくエアぱっくんの余韻に浸りながら1人チビチビと飲めない上善如水を飲んだ。


酔いが急速に廻り、ぼんやりした意識の中でゆうきちゃんの九州弁が聞こえた気がした。

いや、気のせいだ。だってゆうきちゃんはおれの初恋の人で未来のお嫁さんなのだから。



お会計は25万だった。

ゆうきちゃんはゆったんで、多分おれの知らない人だった。




静かな森でひとりさんの素敵な作品はこちら。
現在2話まで出ています。



そして、スナックゆったんの作品からはこちらをオマージュしました。

やや変態指数高めですがご容赦ください。

ひとり再生工場も1/4まで来ました。
これは全力で応援したいと思います😊





そして今日の勝手に記事紹介。
お一人目はなつさんです。

なつさんは、毎日素敵な言葉で詩のようなものを書かれています。言葉って本当に人によって表情を変えてくれて、なつさんの言葉はきらきら可愛いのです。

これはなぜあのタグをつけないのか?と思った方は重症のロジウラー症候群です。お薬出しときます。

#なんのはなしですか


二人目は鳩尾くんです。

なつさんとのコントラストで風邪引きそうです。
でも彼もここまで言葉を操って、いつも凄いなって思います。
何より、コニシ木の子さん、めぐみティコさんに対する愛が、忠犬レベル。
ずっと愛されてね😊

サポートいただきありがとうございます😊嬉しくて一生懐きます ฅ•ω•ฅニャー