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ショートショート 『路地裏殺人事件』

このお話はフィクションです。登場人物は実在の人物とは全く関係ありません。たぶん。


「くそっ! こんなはずじゃ、、、
 はぁ、、、なか、、、ったのに、、、くそっ、、、。」



八月も終わりに近づきようやく朝晩過ごしやすい気温になった。

早朝の『サザンビーチちがさき』

人気のビーチもシーズン終了間近ということで早朝から来る人はほとんどいない。近くの沖でワカメをゆらゆら取っていた可哀想な海女さんによって発見されたのは男女二人の死体だった。

男の方はキノコプリントの水着(全身タイツ)を着ている。女の方は寿司柄のビキニだ。刑事は不謹慎にも「面白いカップルだ」と心の中でつぶやきホトケさんに手を合わせた。

鑑識の結果待ちだが、おそらく溺死だろう。現時点では事故か事件か分からない。

また、二人の死体の近くにはメガネが落ちていた。
どちらかの持ち物だろうか。溺れた際に外れて死体と一緒に流れ着いたのか。刑事は鑑識課に回収の指示を出し、現場を後にした。


被害者の死因はやはり溺死だった。
一見すると心中かとも思えたが、キノコ男の両手の爪から第三者の皮膚が発見された。状況からは事件性が疑われる。おそらく沈められた時に抵抗して犯人の皮膚をひっかいたのだろう。


また、二人の身元は近くに並べて置いてあったカバンの中の免許証からすぐに判明した。

さらに二人の共通点を調べると、あるSNSに登録していたことが分かる。

『ブックマ』

「出会い系か?」このあたりの情報に疎い刑事がつぶやくと、後輩刑事が「いえ、小説とかエッセイを書いて投稿するんですよ」と教えてくれた。
どうやらこの二人はそれぞれ相互フォローという形でお互いの作品を読む仲だったらしい。

住所、職業、家族構成、どれをとっても共通点がないため、手がかりはこの『ブックマ』のみだった。

「ITチームに解析させてくれ」刑事は指示を出し再び現場に向かうのだった。


現場を捜索する刑事は砂浜で光る何かを見つけた。掘り出してみるとそれは『 I love LONDON』と書かれたマグネットだった。
「なんでこんなところに?」
独り言ちているとスマホが鳴った。ITチームからだ。
「いろいろとわかりましたよ。とりあえず署に帰ってきてください。説明します。」


事件が間もなく解決する。刑事のカンがそう言っていた。


ITチームによると、被害者の二人は『ブックマ』の中にある『路地裏』というコミュニティに所属していたようだ。『路地裏』のメンバーの投稿をいくつか読んだが刑事には一体なんのはなしかまったく分からなかった
それどころか、大の大人たちが毎日のようにふざけあっている様を見て軽い眩暈を覚えていた。「な、なんじゃこりゃぁ、、、。日本も終わりじゃぁ。」

そして被害者の二人は事件の前日にある人物と会っていたことが判明する。

メガネのかわいらしい顔のアイコンの男。ここで重要人物が浮上した。

「おい。このメガネを見つけるぞ!」

事件もいよいよ佳境だ。刑事のカンがそう言っている。


メガネの男はあっさり見つかった。メガネを落とした為周りがよく見えず、現場付近でゾンビのようにふらふらしているところを保護されていたらしい。最初は容疑を否認していたが、刑事が『路地裏』の名を出した途端、逃げられないと観念したのかメガネは二人の殺害を認めた。

動機は嫉妬。メガネは寿司柄女に好意を寄せていたが、寿司柄女はキノコ男を神のように崇拝していたらしい。自身の気持ちが報われないと知り絶望したメガネが暴走したようだ。

「よくある話だが、悲しい話だ。『ブックマ』で出会わなければ。。。」


刑事は事件を追ううちに『ブックマ』に興味が沸きアカウント登録を済ませていた。犯人と被害者のことが気になり、良くないことだと思いながらもつぶやきを投稿する。

「この前の茅ヶ崎の事件について。犯人と被害者についてどう思いましたか?🚓」


「こわいです。こんな身近なところで事件が起きるなんて!」
「前からメガネの狂気には気付いてましたよ。アイツ、寿司柄ネキを追いかけてましたからね」
「なんのはなしですか?」
「あれ、寿司柄ネキとメガネって夫婦じゃなかったの?」
「被害者の二人がかわいそう!!全く悪くないのに巻き込まれて!!」
「だからなんのはなしですか?」
「メガネはいつも変態話を投稿していて正直こんな日が来ると思ってましたよ」
「これもどうせ創作なんだろ?」
「🚓って。警察関係者さんですかー?」



事件から2か月後、キノコ男と寿司柄女は『ブックマ』主催のコンテストで大賞を受賞した。

すっかり『ブックマ』にハマっていた刑事は受賞者報告のお知らせでその事実を知る。

死んでから受賞するなんてやるせない話だ。
二人の墓に報告してやろう、と会場に向かうことにした。


授賞式の会場でキノコ男と寿司柄女の名前が発表される。








そこへ颯爽と現れる本物のキノコ男と寿司柄女。
会場からは賞賛の拍手が鳴り響く。

刑事は唖然としてその光景を眺めていた。



授賞式が終わり、懇親会でお互いに生ハムとトマトのピンチョスを食べさせあっていた二人に声をかける。

「あなたたち、この前の事件で亡くなったはずでは?」


トマトをモグモグしながら二人は平然と言い放つ。

「SNSって顔なんて分からないだろ / でしょ。」



「じゃあ、あの被害者二人は誰だったんだ?あんたたちが用意した別人だったのか、、、?」


刑事の問いかけは空を泳ぐ。

キノコ男と寿司柄女は問いかけに答えることなく、再びイチャイチャとローストビーフを取り分けていた。




ここは暗い拘置所。
キノコ男と寿司柄女二人の授賞式の様子を新聞で知ったメガネは、固い床に手を打ち付けて涙を流していた。

「くそっ! こんなはずじゃ、、、
 はぁ、、、なか、、、ったのに、、、くそっ、、、。」







サスペンス的なものに挑戦してみました。万一登場人物から誰かを連想したとしてもそれは人違いだと思われますので、あくまで創作としてお楽しみくださいね。
創作大賞の結果発表、楽しみですね!


参加してます。

ミステリーな50日目


#なんのはなしですか
#66日ライラン


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