見出し画像

残すものを決める

ありがたいことに私の両親は健在である。

いずれ見送るときは来るのだろうけれども、
そのことはあまり考えないように生きている。
おそらく多くの人がそうであるように。

昨日「実家の片づけ」について悩みを抱えているという友人の話を聞く機会があった。
近々引っ越しをするという話も聞いていたので、
なんとなく引っ越しに関連する片付けのことなのかなと軽く考えていたが、
違った。

彼女が今住んでいるのはご両親が生前に暮らしていたご実家で、
もろもろの事情で引っ越すことになった。
それに伴い、亡くなったご両親が遺したものをどう整理しようかというお悩みだった。

ーー父のポロシャツ、母のワンピース、塗りのお重、小さな寿司桶、写真、手帳・・・

彼女の口から溢れ出す、手元に残しておきたいご両親の愛した品々。
気が付いたらzoom越しに2人で大号泣していた。

彼女が泣くのはわかる。
でもなぜ私が、と思うかもしれない。
私は彼女のご両親に会ったこともないし、ご実家に行ったこともない。
なんなら実は彼女と2人きりで話したのは昨日が初めて、という関係だ。
じゃあ、なおさらなぜ、と思うだろう。

それは、彼女のご両親への愛、敬意、感謝が痛いほど伝わってきたから。
手元に残すと決めた品々の1つ1つに彼女が語るストーリーは、
どれも短いセンテンスなのに温かい息遣いがあった。
まるで、彼女が元気なご両親と、今、私の目の前で一緒にいるかのような温かさだった。
彼女がご両親の愛に包まれて過ごしてきた年月を感じ、涙したのだ。

たくさんの遺品の中から残すものを決めるということは、
そのほかのものは処分するということだ。
私にその経験はなくても、それが心理的に辛かろうということは想像がつく。
でも彼女はやってのけた。
涙の後には、すがすがしい笑顔を見せてくれた。
その笑顔に、彼女とご両親の関係が、新たなステージに進んだことを感じた。

いつか私にも、両親の遺したものを整理する時が来るだろう。
その時は、昨日の彼女を思い出そう。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?