ゆず湯

教室の裏になっていたゆずをもらった。
一人暮らしになってから、季節や行事というものにてんでふれてなかったので、たまには。と思い、ゆず湯にしてみた。
ゆずを浮かべて、しばらく待ってから人間が入ったよなあとか、ゆずに穴を開けたら香りが立つんだっけとか、実家にいたころを思い出して、それらしい香りがしてくるのを待った。
バンドマンの先輩におすすめされた曲をスピーカーで流しながら、凍えるからだを湯に入れた。身体が緩みきってしまうまでは、音楽と目の前の景色を楽しんでいた。
次第に音楽鑑賞にも飽きが来て、ゆずを沈めたり回したりして弄んだ。わざと高いところから落としてみて、風呂の底に鈍い音を響かせる様子を楽しんでいた。子供の頃も同じようなことをしていた気がして、自分の中身の変わらなさにホッとした。
さすがに暑いので湯船から出ると、体中がピリピリと痛んだ。そういえばこんな感じだったなあと、実家暮らしを懐かしく思った。
髪を洗って、体を洗い終えても、ピリピリ、チクチクとしたよわい痛みは治まらず、
そのうざったい痛みがまるで、別れてから尾を引いた元カレのようだと思った。まだ、あの頃のあたたかさを覚えている自分に嫌気がさした。どうにもならなかった現実と、部屋の温度の低さをダブルに感じてしまい、さみしくなった。

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