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あの子

私はあの子になりたかった。
自信があって、行動力があって、歌がうまくて、絵がうまくて、教師に対しても強気で、自分の意見を言えて、英語ができて、自分の前髪を自分で切って、自分の人生を楽しんでいるあの子が。

私はあの子に追い付けるものが勉強しかなかった。張り合えるものはそれだけだった。
あの子が、彼女が、同じ高校に行こうというからそれまで別段偏差値や高校のことを考えたことがなかった私は、
彼女と同じところへ行きたくなった。
私も彼女と同じ場所にいるのだと思いたかった。
それは結局受験時期になり彼女が親の都合で都会に引っ越し、私の目指す高校よりさらに進学校へいくことになっても変わらなかった。
私は彼女みたいになりたくて、
本当はうらやましくて、妬ましくて、
それを認められなくて、
そして彼女が、彼女の才能が、大好きで、
それだけだった。

今になって認めてしまうのすらなんだかすこし死にたくなる。

彼女の歌を、久しぶりに聴きながら、彼女は今でも私のなりたい人なんだと思い知って、馬鹿らしくて笑ってしまった。
たぶんこれが憧れという感情なのかもしれない。

私は私の人生を
彼女は彼女の人生を
生きているだけなのに、
どうしてか他の友人のように彼女には気軽に連絡を取れない。

自分が自分を完全に誇れる自分になるまで、きっととれないんじゃないかな。

あのころ、本当に毎日一緒にいたのに、私は、突然何もかもめちゃくちゃになったわたしをあの子に見せられなかった。見せたくなかった。
そしていまも、それはたぶん変わらない。

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