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WISH SIDE Magazine

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WISH SIDEの楽曲に合わせた「サトシコガ」書き下ろしのエッセイをお届けします。
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記事一覧

どうすることもできない不条理

何のために戦い続けているのか?何のために傷つけ合うのか?火薬の匂いが漂う真っ暗な闇の中で、二人は出会った。かつては同じ国で生まれ育った、古い友人同士だった。 誰のために掘り続けているのか?誰のために生き埋めにならなければならないのか?ガスが漂う穴の中で、明かりは命取りになる。爆発の勢いで飛ばされ横たわる仲間は、一軒先にあるとなり長屋の若者だった。 いつも生死と隣り合わせにある最前線の男たちの物語が二つ、頭に浮かびました。一つ目は戦場の最前線、二つ目は炭鉱の掘削場の最前線。

雪のことづて

今年は特に雪が多い札幌です。天から舞い降りるこの「雪」は、時として人の命さえ奪ってしまう自然の猛威と化します。しかし、音もなくゆっくりと降り積もる雪は、森や川、そして町までも、全く別な白い世界へと誘ってくれます。 雪の降り方を表す言葉も様々です。北海道では「しんしんと」と、音もなく静かに降っている様子を使うことが多いです。尽きなく降る「こんこんと」、湿り気がない雪の場合「さらさらと」、まばらに降る雪は「はらはらと」などでしょうか。 かつて太宰治が「津軽には7つの雪が降る」

二人のシンパシー

 AI革命が進むことにより、私たちの生活は変化せざるをえなくなります。スマートフォンが登場した2007年を振り返ってみても、最初は戸惑いましたが、慣れればそれほど気にならなく、今では上手に使いこなしている人がほとんどだと思います。  人間は逃れられない状況に追い込まれると、脳が勝手にその環境に対応しようと頑張るそうです。自動運転が実現し、お掃除ロボットが部屋を綺麗にする。その時人間は、無駄な作業から次々と解放され、本来自分のしたいこと、するべきことに集中することができるよう

永遠の初心者

 テクニウムとは、テクノロジーの進化を生命における生態系と同じものとして捉え、「テクノロジーは自律的に進化する」と主張するケビン・ケリー(Kevin Kelly)氏(雑誌『WIRED』の創刊編集長)が考え出した言葉です。  私たちは日々の生活の中で、テクノロジーの進化にさらされ続けています。我々自身が作り出したテクノロジーが、自律的に進化するというならば、21世紀において、どのようにテクノロジーと向き合っていくべきなのか?    止まることの無いアップデート、変化しつずける

熱い今夜の食前酒「アペリティフ」

 とっておきのご馳走を前に、心と躰の準備を込めてたしなむのが、食前酒(アペリティフ)です。やっとの事で味わえるメインディッシュを前に、空腹の胃袋と、踊る心をどのように落ち着けたら良いのか?それを静かに満たしてくれるのが「アペリティフ」本来の楽しみ方です。  目を閉じ、深呼吸とともに、最初の一口をゆっくりと胃袋に流し込んでください。乾いた喉を滑るように落ちてゆく瞬間こそが、「アペリティフ」の醍醐味です。やがて、神聖なこの儀式に応じるように、胃袋が反応し始めます。「どうぞいらっ