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ナミちゃんに叱られる、じゃなくって気づかされる

 あえて不遜なことを先に言わせてもらう。
 私は、岸田奈美さんに嫉妬していた。

 それはまだ、私がフォローしているSNS界隈(特に「ほぼ日」関係)で彼女の名前をちらほら見かけはじめた頃、の話だが。

「いいねぇー、まだ若いのにSNSに文章載せてたら、どんどんバズって作家になれて、糸井重里さんとかにも見初められて、うらやましーなー」

 上記の文における最後の「うらやましーなー」は、ほぼ嫉妬のトーンである。

 とはいえども、時々誰かがリツイートしてくれる岸田さんご自身のツイートを読んでいるうちに彼女のことが気になり始め、気がつけばツイッターとnote両方で彼女のアカウントをフォローし、彼女がnoteで有料公開しているマガジン「キナリ★マガジン」こそ登録してないものの(ごめんなさい)、彼女のことが気になってたまらない存在になっている。恋か。

 むしろ、今は岸田さんに嫉妬するなんて、ほんっとうにもったいないことだと思う。

 もし、岸田さんに嫉妬している人がいたら、どうか目を背けないで、彼女の文章に一つでも触れてほしい。
 なんとなく飛ばし読みして「ああ、才能あるっていいねー」なんてイラついて終わるんじゃなくて、じっくり彼女の文章に向き合ってほしい。
 きっと、彼女を好きになってしまうから。なんかこの言い方、ホントに恋みたいだけど。

 ってことを、次に挙げる彼女の著書を読んで思った。

 この本には、岸田さんの温かさや優しさ、そして面白さ(これ重要)が十二分に詰まっている。読み終えた後、私は心から彼女を応援したいと思った。

 岸田さんは自分の心の傷をちゃんと見つめられる人だ。
 だから、傷ついた経験すらも文章のネタにし、笑いに変えてしまう。
 でも、その「心の傷を見つめる」作業は、とてもつらいものだ。
 「誰かからどんなに傷つけられようと、自分に愛をくれる人たちもちゃんといる」という決定的な自信がなかったら、その作業はさらに辛くなる。

 でも、岸田さんには「自分には愛をくれる人たちがいる」という確固たる自信があるんだと思う。その人たちとは、ご家族だ。
 本の中では弟の良太君、お母さんのひろ実さん、お父さんの浩二さんとのエピソードも、それぞれに章立てされて、語られている。
 でも、良太君はダウン症、お母さんは車いすユーザー、そしてお父さんは岸田さんが中学2年生の時に急逝されている。ここだけ聞いたなら、ずいぶんと苦労しながら育っているんじゃないかと推測する人もいるだろう。

 確かに、つらかった思いや悲しかった思いも、エッセイの中でたくさん語られている。
 でも、それらも笑いに変える強さを、岸田さんは持っている。
 それはきっと、ご家庭の中ではぐくまれた愛がもたらしたものだろう。
 お母さんも、お父さんも、弟さんも愛にあふれた方々だ。

 そしてもちろん、岸田さんも愛にあふれた方だと思った。
 彼女はご家庭でもらった愛にちゃんと気づき、感謝し、受け取って、その喜びを日々噛みしめながら、生きていらっしゃるんだと思う。

 ところで、この本を読む前に、同じく「キナリ読書フェス」の課題図書である『世界は贈与でできている』を読んでいたのだが、そちらが「贈与論」についての理論編だとすれば、岸田さんの本は実践編に当たるんじゃないかと思う。

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 (↑急に思いついて、ほぼ日手帳にメモった文章。ヘッダー画像では隠してたけど)

 彼女は身近なところに隠れている「既に与えられているもの(=贈与)」を目ざとく見つける力がある。
 だから、ほんの些細な日常のことさえも、楽しい文章にすることができるのだろう。
 例えば、ただ「高級下着店に行ってきた」と一言で済ませられるエピソードですら、愉快な比喩があちこちに散りばめられた一編のエッセイに仕立て上げてしまう。

 岸田さんはボーッと生きてない。
 いや、ボーッと生きてるヒマがないだろう。
 日常の中で、たくさんの事象が、彼女に自分の存在を見つけてもらいたくて、そして笑いと愛がたっぷり詰まった文章にしてもらいたくて、自らの体をキラキラさせながら待っている。
 そして岸田さんは、思わず見つけてしまうし、見つけたからには自分から近づいていってしまう。ハプニングに巻き込まれてしまうこともあるが、結果的には生還することができて、そのいきさつを楽しく明るく文章にして、みんなに届けてくれるのだ。

 今は、「若くていいねー」なんて言うことを、ダサいと思う。
 だって、それは自分がもう若くないと宣言するようなもの。
 そして、私よりも年上の人たちは怒り出すだろう。「あんただって、まだ若いだろう」と。
 自分が一生懸命に書き上げたnoteの記事に、一つもスキ!がつかないのは、年齢のせいじゃありませんから、残念!(なぜここで波田陽区が出てくる)

 たぶん、私は死ぬまで、彼女が次々に発表していくだろう文章を拝読することができる。それは良かった。
 ただ、自分が死んだ後に彼女の新作を読めないことを、今から勝手に残念がっている。
 だから、今のうちに、どんどん彼女の文章に触れていきたいと思っている。
 「じゃあキナリ★マガジンを登録すれよ!」と言われそうだが、ほんっとうに勝手な話で申し訳ないんだけど、私は紙の本でじっくり彼女の文章を味わいたい。

 というわけで、今から早くも岸田さんの著書第二弾を待ちわびている(なんっつう終わり方)。

(2020/12/2追記:やっぱり我慢できなくなって「キナリ★マガジン」登録しました。これから岸田さんの有料記事も楽しみにしてます)

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