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Change the World

高校は電気科に通っていた。スポーツ推薦で脅威の身体能力を持つアスリート、アニメやゲーム好きのオタク、手に職を付けようとする強かな者が一堂に会する不思議な場だった。おまけに九割超が男子生徒で、色恋沙汰もまず聞かない状況だったから、小中学校の頃にやっていた遊びをずっと継続・発展させていた。これだけバラエティに富んだ男子生徒が集まっていると、色々としょうもない情報が共有される。プロアクションリプレイもその一つだった。

プロアクションリプレイは、端的に言えばゲームをハックする機械だ。ゲームカセットとゲーム機本体の間に取り付けて、ゲームのデータを強制的に読み書きするのがその機能だ。この機械を使うと、体力や攻撃力、防御力を任意の数値に変更できてゲームを有利に進められる。さらにはアイテムやキャラクターの特殊能力を最初から全て揃えたり、敵からダメージを受けない、そもそも敵が出ないなど、ありとあらゆる「イカサマ」ができた。当時はオンライン対戦なんて無かったし、仲間内で真面目に勝負する時には使わなかったので、友だちと「スゲー! スゲー!」と言いながら無邪気に遊んでいた。

ゲームをハックすると言っても、変更すべきデータの箇所は自分で特定しないといけない。その方法は非常に地道だ。何なら普通にゲームを進めた方が早くクリアできるかも知れない。

プロアクションリプレイは、ゲーム内のどのアドレスにどんな値が保存されているかを記憶できる。例えば、体力が保存されている位置を特定したい場合、ある時点での全アドレスとそれに対応する全数値を保存し、ダメージを受けた時点で先程とは数値が異なっているアドレスに絞り込む。もう一つの方法としては、プロアクションリプレイに搭載されているバイナリエディタを使って調査する。0から9、AからFの16進数の数値の並びから特定の数値を探し出す。体力が仮に160だったなら、その数値を16進数に変換したA0が入っているアドレスの値を総当たりで変更してみて、ゲーム画面で反映されるかどうか確認する。これら二つの方法を組み合わせて、体力の値が保存されている箇所を特定し、任意の数値 (大抵は最大値であるFF=255) をセットする。

こんな作業をずっとやってたので、ゲームそのものよりも目的のアドレスを特定する方が楽しくなってしまった。今はゲームの改変は違法とされていて、プロアクションリプレイは売られていないはずだ。オンラインゲームが当たり前の時代だから仕方ないけれど、ゲームを想定された通りにプレイするよりも、ゲームの仕組みを変える方が面白く勉強にもなっていたし、プロアクションリプレイがきっかけでプログラマーの基本的な教養を身につけられたから残念な気持ちもある。

特にぼくはゲームボーイというリソースが限られたゲームソフトで遊んでいたから、開発者の工夫やアイデア、設計思想の一端が垣間見られた時にはめちゃくちゃ痺れた。各能力値のアドレスが近い位置に並んでいたり、能力の最大値が15だったり255だったりする理由、獲得している特殊能力が1、2、4、8、10、20、40、80の16進数の足し算の組み合わせに対応していること。発見する度にゲームの世界を作った神様に少し近づけた気がした。

あの時、確かにぼくたちは、世界を変えていたんだ。

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