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📘岩になった僕


よし❗️

僕は地球を、軽やかにサクサクと飛び回って、チョチョイと、世直しをしてやろう❗️

僕の世界には何もなかったから、楽しみだ✨
何をしよう。
僕は、目一杯、遊ぶつもりでいるんだ❗️
この地球🌏で😊

ここにはいっぱいおもちゃがある🤖
ワクワクするな。
きっと、楽しいことしかない❗️

ガイドの子天使が海の見える断崖絶壁へと僕を連れてきた。

「何があるの?」
僕は子天使に聞いた。
「今から、君は岩になるんだよ」
「は?」

子天使は断崖絶壁に佇む大きな岩を指した。

「岩?」
「そう。岩」

冗談じゃない。
僕は地球に遊びに来たんだ❗️
沢山の物質がある世の中で、物を使って僕は遊びたいのに❗️

コワモテさんがやっていた麻雀でも、
おばさんみたいに、好きな物を作って売るにしろ、何にしろ、動いてなんぼじゃないか❗️

人間じゃなくて、岩ってなんなんだよ❗️

「嫌だよ❗️僕はここに遊びに来たんだ」
「でも、これやらないと、始まらないよ?」

子天使は動揺するでもなく、いつものように、段々と柔らかい口調だ。でも顔は笑っていない。

子天使の絶対に曲げない意志を感じる。
岩になることにも意味があるのだろうか。

僕は仕方なく岩の中に入った。
すると、子天使は言った。

「それじゃ、時期が来たら迎えに来るからね」
そう言って、子天使は去っていった。

ここには何もない。
暇で暇で仕方がない。
これなら、パパとママと一緒にいた世界と変わりがないじゃないか。

しかも、もっと自由に動けなくなってしまった。

すると、どこかから声が聞こえてきた。
「つまらないかい?」

大人の男性の柔らかいような声。
「ここは案外、いいところだと思うんだけどなぁ」

僕は岩だけど、辺りを見回した。

「ここだよ」

隣にも岩があり、そこから話しかけているようだった。

「おじさん、ずーっとここにいるの?」
「ああ。以前はもっと仲間がいたんだが、今はいなくなってしまったよ。話し相手ができて嬉しいよ」

いなくなるとはどういうことだろう?

僕はわからなかったが、話し相手ができて、嬉しかった。

それから、僕たちはずっとしゃべっていた。
口も耳も目も鼻もないけれど、テレパシーで会話は簡単にできる。

話し相手が隣にいるだけで、僕は退屈ではなくなった。

僕たちは毎日毎日話した。

ある日、この断崖絶壁に人がやってきた。
男女の楽しそうな弾んだ声が聞こえて来る。

どうやら20代くらいのカップルのようだった。
二人は僕の上に座って、楽しそうな会話からロマンチックなモードに入っている。

座られてはいるんだけど、不思議と嫌ではなかった。
二人のほんわかした甘い空気に、僕もうっとりした。
いい気分だ。

そして、僕は気がついた。
ここの景色の良さに。

遮るものがなく、見えるのは壮大な海と空と太陽。

おじさんが言っていた、「いいところだと思う」とはこのことだった。
ジメジメした岩が密集した、窮屈な場所もある。

カップルが帰ったあとは、静かな夜だった。
真っ黒な海に月明かりの道が、僕の目の前にある。星もチラホラと輝き、綺麗な景色だ。

そう、ここも悪くはない。
僕は岩になって良かったのかもしれない。

「おじさん」

語りかけたが返事はない。眠っているのだろうか。
静かに無になるときが、僕らの眠っている時。

何も考えず、無意識の中にスーッと入っていく感じ。

死んでいるわけではない。
けれど、雑音も、雑念も何もない無の境地。
夢すら見ない。

朝日が登ってから、僕らはまた喋った。

けれど年月が経つに連れ、時折、おじさんが喋らなくなる時間が増えた。

以前は会話もスムーズだったのに、何分もおいて返事が来る。
僕は、その愚鈍さに苛立った。

おじさんの口数が日に日に一文字一文字減っていくような、愚鈍さが目立った。

レスポンスが前と比べて、格段と悪い。

話しかけても、長い間があるので、僕はその間退屈でつまらなかった。

返事がない間、仕方がないから僕はずっと海と空と太陽を見ていた。
その時は、僕も岩と同化していくような感覚だった。
ただ何も考えずに見ている。

時間が経つにつれ、始めは嫌だったおじさんとの無言の時間にも、慣れた。
この壮大な地球の景色は見ていて飽きない。
心が穏やかになるだけだ。
ずっと見ていられる。

ある日おじさんはとうとう、喋らなくなった。
僕は直感的に思った。
おじさんは岩になってしまった。

おじさんの言ってた、仲間がいたけど皆んないなくなってしまったとは、このことだった。

僕もこのまま、いい気分で岩になって溶け込んでいくのだろう。
僕も気がつけば口数が少なくなっていた。
話そうとすると、思考を持とうとすると、重たくなるのだ。

そんなところに、子天使がやってきた。

「もういいよ」
僕は、岩から出ることができた。

子天使と一緒に空高く飛ぶ。
重かった思考が嘘のように軽い。
目が覚めたようだ。

さよならおじさん。
楽しいお喋りをありがとう。

地球の綺麗さを教えてくれてありがとう。

おじさんは地球と化したのだ。





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