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伊月一空の心霊奇話 ―いわく付きの品、浄化します―

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霊が視えることが悩みの静森紗紀は わけあって 一軒の骨董屋を訪れる。店の名は『縁』。その店は店主である伊月一空の霊能力で 店に並ぶ品たちの過去の縁を絶ち さらに新たな縁を結ぶとい…
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2024年7月の記事一覧

伊月一空の心霊奇話 ーそのいわく付きの品、浄化しますー 第35話

◆第1話はこちら 第2章 死を記憶した鏡13 鏡の価値 「あれから恭子、ぐっすり眠れるようになったと言っていました。伊月先生にありがとうって」  恭子も変わったものだ。  胡散臭い霊能者から、伊月先生だもんな。  余談だが、自分を蹴飛ばして逃げ出した薄情な彼氏とは、きっぱり別れたという。さらに、汚い部屋は悪いモノを寄せ付けやすいと一空に言われ、今ではこまめに部屋の掃除をしている。 「そうか」  読んでいた本から視線を上げることなく、一空は素っ気なく答える。  そこで会話

伊月一空の心霊奇話 ーそのいわく付きの品、浄化しますー 第36話

◆第1話はこちら 第2章 死を記憶した鏡14 僕を生かすも殺すも  一空がじっと、こちらを見つめている。  何度誘われても、弟子にはならないと告げようと口を開きかけたが、店の前に一台の高級車が止まったことに気づき、言葉を飲み込む。  車から降りたその人物は、片手でネクタイを整えながら店の扉に手をかける。 「いっくう、いるー?」  扉が勢いよく開き、またしても一空の友人の弁護士が現れた。  弁護士というと、法廷で争ったり、拘置所に勾留されている人と面会したりとあちこち飛び

伊月一空の心霊奇話 ーそのいわく付きの品、浄化しますー 第37話

◆第1話はこちら 第3章 呪い人形1 骨董屋でのバイト開始  紗紀は骨董屋『縁』の店内に置かれている商品を、はたきで念入りに掃除をしていた。  バイトは空いている時間、好きな時に来ればいい。  もしかしたら突然、こちらから店番をお願いすることがあるかもしれないが、そういうことはまずないと思っていい。  もちろん、無理だったら遠慮なく断ってくれてもかまわない。  とにかく、学業はもちろんだが、友人との付き合いを優先してもかまわない。  バイトの予定が入っていても、急に来られ

伊月一空の心霊奇話 ーそのいわく付きの品、浄化しますー 第38話

◆第1話はこちら 第3章 呪い人形2 呪われた一空  バイトを終え、駅前のスーパーで買い物をしてから家に帰ろうとしたところ、店の前にチャラ弁の車が横付けされた。 「紗紀ちゃん今帰り? 送って行くよ。乗って乗って!」  車で送るもなにも、買い物に行きたいし、家は店から歩いてすぐなので丁重にお断りをする。  それに、こんな町中で目立ちすぎる高級車で送ってもらうなど、近所の人に見られたら何て思われるか。 「けっこうです。歩いて帰れる距離ですから」  そこへ通りかかった中学生が

伊月一空の心霊奇話 ーそのいわく付きの品、浄化しますー 第39話

◆第1話はこちら 第3章 呪い人形3 前世のことなんて覚えているわけがない 「いっくうは、昔、ある女性と揉めてね」 「女性と揉めた? こ、恋人ですか?」  一空に恋人の存在がいるかもと聞き、紗紀の胸がズキンと痛んだ。  今までのチクンという痛みではなく、それこそ心臓がどうにかなってしまいそうな強い痛みだ。  一空は大人の男の人。それに、あの容貌なら恋人の一人や二人や三人……数え切れないくらいいるだろうし、もしかしたら結婚もしているかも。  ああ見えて、子どもがいたりして

伊月一空の心霊奇話 ーそのいわく付きの品、浄化しますー 第40話

◆第1話はこちら 第3章 呪い人形4 涙を流す市松人形  はたきで埃を払うように、頭からチャラ弁の言葉を振り払う。『縁』で働くこと自体は楽しい。  お店の雰囲気も、落ち着いていて好きだ。  小物やアクセサリー、陶器やお人形、どれもこれもため息がこぼれるほど素晴らしい品物が多く、心が癒やされる。  はたきをかけながら、紗紀は目の前の人形を見て再び手を止めた。  市松人形? わあ、上品な顔立ちね。  まるで生きているよう。  きっと、高価な人形なんだろうな。でも、きれいな顔

伊月一空の心霊奇話 ーそのいわく付きの品、浄化しますー 第41話

◆第1話はこちら 第3章 呪い人形5 人形に話しかけるイケメン  翌日、骨董屋『縁』に寄った紗紀は店に入るなり目を疑った。  一空が市松人形を手に話しかけているからだ。  それも真面目な顔で。  今日はバイトの予定はないのだが、何となく人形のことが気になり来てしまった。しかし、来るべきではなかったと後悔する。 「そうか、寂しいか。そうだな、ずっとひとりぼっちだったのだからな。おまえの元の持ち主を探してはみるが、生きている保証はない。それでもいいか?」 「い、一空さん?」

伊月一空の心霊奇話 ーそのいわく付きの品、浄化しますー 第42話

◆第1話はこちら 第3章 呪い人形6 身代わり人形  藤白五十浪の工房は、千葉県N市にあり、都内から電車で一時間ほどの場所にあった。  工房というからには人里離れた山奥の、さらに奥深く、人跡未踏な場所に炭火小屋のような場所で、仙人のような暮らしをしながら作業をしていると勝手に思い込んでいた紗紀であったが、普通に町中にあって驚いた。  事前に訪問することを連絡をしていたため、人形の制作者である藤白五十浪にはスムーズに会えた。  出迎えてくれたのは、名前の雰囲気にはまったく

伊月一空の心霊奇話 ーそのいわく付きの品、浄化しますー 第43話

◆第1話はこちら 第3章 呪い人形7  結局、人形の持ち主は分からず 「しかしのう」  二代目は息をつき空を見上げた。 「皮肉なことに、その騒ぎのおかげで、わしはこれまで以上に世に名の知れ渡る人形師となった。わしの作る人形には、魂が宿ると。皮肉なことだのう」  二代目は当時のことを思い出したのか、虚ろな眼差しで遠くを見つめている。 「二代目……」 「それにしても、悲しそうな顔をしておるのう」  寂しそうな声で言い、二代目は人形の髪を撫でた。 「あの……信じていただけない

伊月一空の心霊奇話 ーそのいわく付きの品、浄化しますー 第44話

◆第1話はこちら 第3章 呪い人形8  迷子の少女  せっかくここまで来たが、確かな手がかりを見つけられず落胆する。 「ごめんね」  紗紀は人形の頭を撫でながら声を落とす。  工房を出た紗紀は、駅に戻るためのバスに乗った。  はやく一空に会いたかった。  窓際の席に座り、ぼんやりと流れていく景色を眺めていたが、やがて緊張が解けたのと、窓から差し込む日差しのせいもあって、次第に眠気に誘われていった。  目覚めたのは運転手さんの終点です、と告げる声であった。 「うそ! 寝

伊月一空の心霊奇話 ーそのいわく付きの品、浄化しますー 第45話

◆第1話はこちら 第3章 呪い人形9 一空にまとわりつく黒い影  突然、聞こえてきたその声に、はっとなって紗紀は肩にかけていたバッグから例の市松人形を取り出した。 「この人形」  紗紀は少女たちの前に人形を差し出す。すると、美優と柚希は目を輝かせた。 「探していた人形はお姉ちゃんが持っていたの」 「うん、ちゃんと見つかったんだね!」  頷いて柚希はポロポロと涙を流す。 「この人形の持ち主は、柚希ちゃんと美優ちゃんだったんだね」  紗紀は人形を柚希ちゃんに手渡した。 「あ

伊月一空の心霊奇話 ーそのいわく付きの品、浄化しますー 第46話

◆第1話はこちら 第3章 呪い人形10 呪いを解くためには  一空は苦笑いを浮かべる。 「あいつか」 「はい、チャラ弁から聞きました」  うっかり、あの弁護士(いまだに名前を思い出せない)のことをチャラ弁と口をついたが、一空はそれについて、突っ込んではこなかった。 「大昔、私と伊月さんが喧嘩をして、私が呪いをかけたから、だから、その呪いを解けるのも、私だけだって」 「そんなことを言われたのか。それで、紗紀はあいつの言葉を真に受けた」  呆れたように一空は深く息をつく。

伊月一空の心霊奇話 ーそのいわく付きの品、浄化しますー 第47話

◆第1話はこちら 第3章 呪い人形11 人間国宝が手がけた  骨董屋『縁』に以前やってきたあの母娘が再び訪れたのは、藤白五十浪の工房から帰ってきてから五日後のことであった。  もう来ることはないだろうと思っていただけに、店に現れたときは驚いた。  母親の方もあの時、娘の手を引きそそくさと店から去って行ったことに対して何かしらの感情があるのか、紗紀の顔を見るなり苦い笑いを浮かべ会釈してきた。しかし、子どもの方は、そんなことなどまったくおかまいなしに、 「よかった。まだお人形

伊月一空の心霊奇話 ーそのいわく付きの品、浄化しますー 第48話

◆第1話はこちら 第3章 呪い人形12 もう一つの人形にこめられた思い  母娘の姿が出て行ったと同時に、紗紀は一空に詰め寄った。 「一空さんどういうことですか? まだ浄化されていない物を売るなんて! 姉妹の命を奪った呪いの人形を! あんまりです」  いくらなんでも、呪いの人形をあの子に売るなんて酷すぎる。 「また、一空のバカ、とでも言うか?」  最初、ぽかんと口を半開きにしていた紗紀だが、すぐに先日のことを思い出し、口をあわあわとさせた。  聞かれていたのか。 「あれ