食べかけの実
帰って来たあの音に
食べかけの実を落とした
君がなくした物を 僕が持っていたとしても
補い合うことはとうに諦めた
君は君自身を守る揺り籠に揺られて
僕はそれを遠くから見ていて
君の為の僕になれると思ったあの日の僕だって
今と同じように生きていた
今と同じ意識のラインの上で判断したこと
生きている僕が全身で感じたこと
また同じリズムに僕は取り残されて
空気も滑り込めない歪みの隙間に流されて
しかしうろたえず漂い
思い出す
探すものが違っても
ただの浅い偶然でも
君はここで呼吸をしていた
僕はそれを同じ体温で見ていた
あの日の全てが蘇るような錯覚が
僕の体内にあの音を響かせる
それはたった一瞬の思考
食べかけの実が地面に落ちるまでの
長い長い
一瞬
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